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【天災は忘れた頃にやって来る】
 (寺田寅彦の言葉とされる)天災は、起きてから年月がたってその惨禍を忘れ
 た頃に再び起るものである。
 高知市の邸址にある碑文は「天災は忘れられたる頃来る」。
  《広辞苑・第五版》

 寺田寅彦1878(明治11)〜1935(昭和10)年に生きた物理学者。地球物理学的な
 研究や、金平糖の角等の身近な物理現象の研究で知られます。また、優れた
 随筆や俳句で知られた文人でもありました。

 さて、この「天災は・・・」が寺田の言葉だとしたのは寺田の弟子の一人、
 雪の結晶の研究で知られた中谷宇吉郎博士。中谷はこの言葉が寺田の著作に
 あると紹介したのですが、これは誤りでこのとおりの言葉は寺田の著作には
 なく、寺田との会話の中に度々登場したため誤解したものであったと、後に
 随筆「百日物語」などで訂正しています。
 (結果としてですが、文字としてこの言葉を残した最初の人物は当の中谷博
 士自身ということになりました)

 会話では頻繁にこの言葉を使ったという寺田は「天災と国防」の中で、文明
 の程度が進んでも一向に災害に対する備えが進まない理由として

  「天災が極めてまれにしか起こらないで、丁度人間が前車の顛覆(てんぷ
   く)を忘れた頃にそろそろ後車を引き出すようになるからだろう」

 と書いていることなどから、「天災は・・・」という言葉をしばしば使った
 ことも想像出来ます。

 さて、「天災は忘れた頃にやってくる」に対して近頃は「天災は忘れなくて
 もやってくる」とも言います。自然現象だから人が忘れようが忘れまいがそ
 んなことにはお構いなしにやってくるものだということで、こう言い換えら
 れることもあるのでしょう。

 ただし、寺田が憂えたのは天災が起こることではなくて、起こった天災を教
 訓とした次の天災への備えが進まないことです。そうしたことを考えて言葉
 を接げば

  天災は「備えを」忘れた頃にやって来る

 と言っている訳です。
 現在 9/1が防災の日と言うことで各地で避難訓練などが行われたことと思い
 ますが、ここで言う防災は天災を防ぐということではなく、天災が起こった
 後に続く被害拡大を防ぐという意味でしょう。

 現在、我々は天災そのものを防ぐことはまだ出来ませんが、天災が起こった
 後の被害をいくらかでも小さくすることは「備え」によって可能です。備え
 れば防げる災害被害を防がないなら、その被害は天災ではなく人災です。

 寺田、中谷両博士の使った「天災は忘れた頃にやってくる」は過ぎてしまえ
 ば恐怖を忘れ、備えを忘れて防げたはずの天災後の人災をそのままにしてし
 まう人間の性に対する警句だと考えます。


オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2008/09/03 号

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