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【濫吹】(らんすい)
 [韓非子内儲説上](笙の一種の「う(竹冠+于)を吹けない者が、楽人の
 中に入ってごまかしていたが、一人ずつ吹くことになって遂に逃げ出したと
 いう故事から)
 1.無能な者が才能があるようによそおうこと。実力のない者が地位について
  いること。濫う(竹冠+于)。懐風藻「―恩席に陪はべり」
 2.秩序を乱すこと。乱暴。狼藉。古事談 2「后の宮の中に乱入し見物するこ
  と―殊に甚だし」
   《広辞苑・第六版》

 紀元前 4世紀末ですから今から2400年以上前のことです。戦国時代の中国に
 斉という国があり、その君主に宣王という人物がおりました。

 宣王は笛の一種である「う」という楽器の演奏が大好きでした。
 それも、 300人もの演奏者を集めての大合奏を好んでいました。
 そんな宣王のもとに、

  是非、王の楽団に加わり、王のために「う」を奏したいのです

 という男がやってきました。宣王はこの申し出を喜び、早速この者を楽団に
 加え、高給を与えて厚遇しました。

 それから、何事もなく何年かの月日が流れました。斉の国も宣王が亡くなり、
 次の王の時代となっていました。新しい王は先代の宣王同様、「う」の演奏
 を鑑賞することを好みましたが、その鑑賞のしかたは宣王とは違いました。
 新しい王は大合奏を好まず、一人ずつの独奏を好んだのです。

 すると、宣王に「王のために吹奏したいのです」と自薦して楽団に加えられ
 たあの男の姿が楽団から消え、行方が分からなくなってしまいました。
 男は、本当は「う」の演奏なんか出来なかったのです。
 大勢で合奏すれば、一人くらい「吹いているふり」をしていてもばれない。

  どうしても上手く吹けない人は、当日は吹いたふりをしてください

 という、昔はどこの小中学校の学習発表会でも、半ば公然の秘密として行わ
 れたあれと同じことをしていたわけです(経験者は語る)。

 宣王に楽団入りを自薦した男は、本来は楽団に入るような力が無いにもかか
 わらず、こんな詐術によって楽団員の地位を得たのでした。
 でも、独奏を好む王の時代になるとそんな詐術は通用しませんから、逃げ出
 してしまったのでした。

◇だまされる方も問題です
 きちんと演奏する力もないくせに自薦して楽団に潜り込むとはひどい男です
 が、そんな男を試験もせず楽団に入れた宣王も困ったものです。まあ、一国
 の君主らしい鷹揚さといえなくもないですが。

 宣王のこの君主らしい鷹揚さは見方によっては美徳かも知れません。しかし、
 こんなまともな演奏も出来ない人間を楽団に加え、またその演奏したふりに
 もずっと気がつかなかったとすると、音楽を好んだという宣王のその耳はた
 いしたことは無かったようです。
 だまされる方にも、それなりの問題はあったと言えるでしょう。

 笑い話のようなこの濫吹の故事ですが、案外現在でも似たようなことがあち
 こちでまかり通っているような気がします。
 選挙のときには「当選した暁には、必ず○○を実現します」とかなんとかい
 いながら、当選してみればあとは任期いっぱい目立たないようにして・・・。
 だまされる方にも問題があるという点では、私たちも宣王を笑うことは出来
 ないようです。

◇もう一つの使い方
 現在ではこの「濫吹」を自らを謙遜する場合に使うことがあります。
 「能力もないのに、こんな地位を占めております」という意味に使うわけで
 す。そんなことを考えながらふと我が身を振り返ると、どっと冷や汗をかい
 てしまいました。

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2011/03/21 号

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