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【詮・甲斐】(かい)
 行動の結果としてのききめ。効果。
 また、してみるだけの値打ち。
 竹取物語「思ふにたがふ事をば、詮なしとは言ひける」。
 「苦労した甲斐がある」
 →がい(接尾)
   《広辞苑・第六版》

 「かい」は「生き甲斐」とか「やり甲斐」といった言葉として耳にすること
 の多い言葉ですが、改まってその意味は何だろうと急に思いました。
 漠然とした感覚では分かるのですが、説明してと問われるとはっきり答える
 自信がない。ここは辞書を引くしかないかと引いた結果が、広辞苑のこの記
 述。さすがは辞書。
 なるほどよく分かりました。

 「やった甲斐がありました」といえば、行動の結果として効果あったこと。
 「やり甲斐がある」といえば、してみるだけの値打ちがあると云うことか。
 こんな当たり前のことがなぜ巧く説明出来なかったのかなと、それがかえっ
 て不思議になるほどです。

 巧く説明できなかった理由は多分、この言葉が「効果」と「値打ち」という
 二つの異なった意味を併せ持った言葉だと分かっていなかったからだったと
 思います。

 「効果」は事実として現れますから、客観的にそれを測ることが出来るでし
 ょうけれど、「値打ち」を測る尺度は自分の内側にあるものですから、同じ
 もの、同じ事柄に対しても人それぞれに違った値打ちが存在しそうです。

◇「甲斐」で思い出した昔話
 「甲斐」の二つの意味を知って、友人のK君の体験談を思い出しました。
 K君は、その昔、一年間一緒に研修を受けた仲間です。
 彼は映画化されて有名になった「海猿」の一人。中でも人命救助の最精鋭部
 隊である特殊救難隊(特救隊)にも在籍したことのある、丈夫で長持ちしそ
 うな体と、磊落な性格を持った楽しい人物です。

 K君が特救隊に入って間もない頃、火災船に救助に向かった時のこと。
 いつ沈むか、いつ爆発するか分からない火災船に乗り込んで、生存者を探し
 て船室を見て回っているなかで一人の人が亡くなっている部屋があったそう
 です。

 その部屋は特に焼け方が酷く、骨まで灰になってしまっているほどだったそ
 うで、生存者はいないことを確認して、その場を離れようとしたとき、

   「何してる! その灰をつめろ!」

 と隊長に怒鳴られたそうです。
 何を云われているのか分からないK君に「なんでもいい、とにかくつめろ」
 とさらに語気を強めて隊長からの指示が飛び、危険な現場でK君は訳も分か
 らず骨ともただの灰とも分からないものを装備品の袋に詰め込んでその部屋
 を飛び出したそうです。

 K君の必死の捜索も空しく、火災船では結局、生存者を救助することはでき
 なかったそうです。助けられなかった船の乗組員の遺族に渡せたものは、元
 は何のものだったかもよく分からない一握りの灰だけという結果。
 人命救助を目的とするK君たちにとっては、出動した甲斐のない結果です。
 ただ、その灰の入った袋を握りしめた奥さん(お母さんかも?)が、K君た
 ちに向かって、深々と頭を下げてれたとき、

  「どうしていいか分からなくて、自分も頭を下げるしかなかったな」

 K君の話はこれだけでしたが、それ以後同じ場面に出会えばK君はきっと、
 危険な現場でも、灰をつめて持ち帰えるようになったと思います。
 もしかしたら部下や後輩に、「その灰をつめろ!」と怒鳴ったかもしれませ
 ん。その甲斐があってもなくても、それをするだけの甲斐があると、K君は
 思ったようです。

 甲斐のあるなし、考えるとおもしろいものですね。

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2012/02/18 号

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