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【錚錚】(そうそう)
 1.よく鍛えた鉄などの響き。また、さえた音楽の音。
 2.多くのものの中で、特にすぐれたさま。「錚々たる人物」
   ≪広辞苑・第六版≫

 夏の暑さを忘れさせてくれるものの一つに、風鈴があります。
 風鈴の澄んだ音によって、その音を生み出した風の涼しさを肌より先に耳か
 ら感じることができます。

 風鈴は様々な形があり、その素材も鉄以外に様々なものがあります。その形
 や素材が異なれば、その生み出す音も様々。人それぞれの好みに合わせて、
 お気に入りの一つを選ぶという楽しみも風鈴にはあります。

 そんな様々な風鈴の音の中で、私の好みに合致したのは明珍火箸風鈴の音。
 おそらく、明珍という名前は、武具や甲冑などに興味のある方ならば一度は
 耳にしたことがある名前でしょう。平安時代から続くという甲冑師の名前で
 す。甲冑師として培った鉄(正しくは「鐵」ですね)を鍛える技術で作られ
 た火箸を打ち合わせれば、涼やかな音が生まれます。これに気付いて火箸を
 風鈴に仕立てたのが、明珍の火箸風鈴です。

  (明珍本舗 http://myochinhonpo.jp/)

 さて前置きが長くなってしまいましたが、明珍の火箸風鈴のようによく鍛え
 た鉄の響きは素晴らしい。
 その音を表す言葉が本日取り上げた「錚錚」です。

 もっとも、この言葉を音を表す言葉として使うことはまれでしょう。一般的
 な用法はといえば、広辞苑の語釈の2にある「多くのものの中で特にすぐれ
 たさま」を表すものと思われます。

 鉄は固く丈夫で、役立つ金属ではありますが、その中でも鍛えあげられ、際
 立ってすぐれたものを指す言葉が「錚錚」でした。このことから「錚々たる
 人物」といえば、優れたものの中でも特別に優れたものを指す言葉となりま
 した。

◇誉め言葉としては微妙?
 言葉は時とともにその意味が変わってしまうものですが、この「錚錚」とい
 う言葉も、意味が変わった言葉です。ただし、大きく変わったのではなくて
 微妙な変化を遂げています。

 現在のように「多くのものの中で特にすぐれたもの」という意味で「錚錚」
 が使われるようになったのは、中国で後漢王朝を築いた光武帝劉秀の故事に
 由来します。

 光武帝が赤眉の乱(せきびのらん。AD18〜27)を平定した際に投降した賊軍
 の将達に投降を後悔しないかと問うた問答の中で「鉄中の錚錚、傭中(よう
 ちゅう)の佼佼(こうこう)」として「錚錚」という言葉が登場します。
 光武帝の投降したことを後悔しないかという問いに対して、賊将たちが

 「赤眉の乱などに荷担しましたが、今振り返って考えてみると何と馬鹿な
  ことをしてしまったのかと感じております。なんで投降したことを後悔
  致しましょうか」

 と答えたのを聞いて、光武帝は投降した将達を評した言葉が「鉄中の錚錚」
 でした。鉄は金や銀などに比べると下等な金属と考えられていましたが、
 そうした鉄の中にも、固くてよい音のするやや上等の部分もある。投降した
 将たちは、鉄の中では上等な方だというのが、その評価でした。

 「馬鹿なことをした」と気付いて投降してきた者たちは、最後まで馬鹿なこ
 とに気付かない者たちに比べればましな方だという評価。ほめてはいるので
 しょうが、手放しに誉めているわけではありません。二流の集団の中ではま
 しな方、「中の上」といった、少々微妙なほめ方といえます。
 本来の意味を知ってしまうと、

  さすが、錚々たるメンバーがそろいましたね!

 なんて言われても素直に喜べなくなっちゃいそうです。
 ま、時にはちょっぴりの皮肉を込めてこの言葉を使う楽しみもあるかもしれ
 ませんが。

 ただ、「鉄中の錚錚」で作られた火箸風鈴の音は、そんな皮肉などなく、手
 放しで誉めて良いものです。皆さんも「錚錚」と風の奏でる夏の音を聞いて
 みませんか?

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2018/08/04 号

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