こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■沖天の月 ・・・ その1
 本日は沖天にかかる冬の月の話です。
 話を書き出すきっかけは、とんだ誤解から。

   月天心 貧しき町を 通りけり  (蕪村)

 蕪村の有名な句です。
 一昨日は満月。煌々と輝く月は頭上から地上を照らし、影は足下にうずくま
 るほど短い。月の青い光と、それによって照らし出される陋巷の風景。
 日の下では薄汚れた下界の町が、月によって浄化されたかのような映像が浮
 かびます。その風景に似合う季節は冬。

 とずっと思っていました。これが誤解の始まり。この句の季語は「月」そし
 て、月が示す季節と言えば「秋」。また花と言えば桜を指したように、月と
 言えば中秋の名月。この句は明和五年(1768)に書かれたものだと言います。
 そしてこの年の中秋の名月は何時かと計算してみると現在の暦で言えば9/25。
 なるほど秋ですね・・・。

 「月天心」、つまり月が沖天にかかっているという表現から、ならば「冬」
 と思ってしまったのは、私が文学青年(中年)ではなく天文少年(中年)で
 あったからです。だって、満月が一番高くまで昇る季節が冬だってことは月
 の観測をしたものには実体験ですから。

 誤解からスタートしてしまいましたが、文学から天文学に頭を切り替えて話
 を続けさせて頂きます(天 + 文学 = 天文学 ?)。

◇夏の満月は低く、冬の満月は高い
 満月の頃、ふと頭上の月を眺めることは誰に出もあることと思いますが、そ
 んなとき、夏と冬とでは眺める角度が大分違うと言うことに皆さんはお気づ
 きでしたか?

 気が付いていない方は、とりあえず今夜当たり夜更かしして月が一番高くま
 で昇る時間に確かめてください。このメールマガジンをお読みの方だと次の
 そのチャンスは12/8の午前 2時頃に巡ってきます。
 この時刻に月を眺めてみると、首が痛くなるほど高い位置まで月が昇ってい
 ます。東京辺りなら地平線からの角度で81°。ほとんど真上に近い。

 とりあえず、これで冬の満月の時期の月が空の高いところまで昇ることが実
 感出来たはずです。あとは、この感覚を忘れないようにして次の夏の時期の
 満月の日あたりに月を眺めれば、その角度の差の違いを実体験出来ます。
 (そして、半年がかりの壮大な実験が終了します)

 実体験は半年先のお楽しみとして、ここでは計算の結果でその差がどれくら
 いあるか示してみます(計算値は東京における値)。

  2006/12/05(満月) ・・・ 月の地平線高度 ≒ 82°
  2007/06/01 ( 〃 ) ・・・     〃   ≒ 26°

 その差56°もあります。
 これはよほどぼんやりしていても気が付きますね。

 一応天文少年(かつては)だった私なので、このぼんやりしていても気づく
 事柄には気づいておりましたから、冒頭の「月天心」の句をてっきり冬の情
 景を読んだものと勘違いしてしまったのでした。
 うっかり、冬の句として説明しなくてよかった。

 話し始めたので、ではなぜ冬の満月の高度がこんなに高くなるのか、その話
 を続けようと思いましたが、大分長くなってしまったので本日はここまで。
 続きはまた次回といたします。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2006/12/07 号

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