こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■記念日考 ・・・ その5(季節との関係)
 記念日考、当初から長引くなと言う予感はありましたが本日で五回目。本当
 に長くなりましたね。

 さて、昨日の号で西行忌の西暦での日付について考えました。その説明の中
 でグレゴリウス暦(現在我々が「新暦」と呼んでいる暦)は1582年より前に
 は存在しない暦でそれ以前はユリウス暦が使われていたのだとも述べました。
 ですから、西行が亡くなった日付(西暦年は1190年)を当時西洋で使用され
 ていた暦日に変換すると何日になるかと言えば、

  ウ. 3月23日 ・・・ イの日付をユリウス暦に置き換えたもの
  エ. 3月30日 ・・・ イの日付をグレゴリウス暦に置き換えたもの

 の「ウ」が正解と言うことになります。
 ところが、この日刊☆こよみのページの 2007/2/16号の前書きでは「エ」の
 日付を使っています。私が西行が亡くなった頃はまだグレゴリウス暦が無か
 ったことを私がうっかり忘れて書いてしまったのかというと、そうでは有り
 ません。それなりの考えがあってしたものです。

◇西行はどんな風景の中で亡くなったのか?
 何度も引用しますが、西行と言えば

  願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃

 の歌が有名です。そしてその歌の通り「きさらぎの望月の頃」という日付に
 亡くなったと言うことで、「西行忌」が強く記憶に残ります。
 あと気になる点は、「花(桜)の下」で亡くなることが出来たのだろかとい
 う点です。

 今年は暖冬で、どうやら桜も例年より早めに咲きそうですが、こうした年は
 例外として、「桜の花の時期は何時ですか」と尋ねられれば

  三月下旬から四月上旬かな

 と答えると思います。もちろん日本も広いですからどこでもと言うことでは
 有りませんが、ここは西行が主に活動した近畿圏の話だと言うことで、ご了
 解ください。

 さて「西行は花の下で亡くなったのだろうか?」と考えると、「桜の時期は
 三月下旬から四月上旬」という現在の暦日と季節の関係が気になるところで
 す。ここでこっそり

  現在の暦日と季節の関係

 という言葉を織り込んでしいまいましたが、言いたかったのはこの言葉。
 我々が暦日と季節を結びつけて「暦日の季節感」を考えるとき、その基準に
 なる暦日はその人が日常に用いている暦による日付となるはずです。ですか
 ら、西行が亡くなった季節の風景を現在の我々が考えるなら、現在の暦(い
 わゆる新暦であるグレゴリウス暦)で換算した日付を用いるのが、目的にあ
 った使い方だと考えます。

 この考えから、西行忌について「エ」の新暦の日付を私は採用しました。

◇ユリウス暦の暦日と季節のずれ
 暦の歴史から言ってもユリウス暦からグレゴリウス暦への改暦はユリウス暦
 の季節とのずれを修正する必要が有って行われた。

 西行の亡くなった1190年頃のユリウス暦の暦日と季節のずれは 7日ほどに達
 していました。花期の短い桜にとってはこの 7日間のずれの意味は大きい。
 西行の亡くなった日の季節の風景を思い浮かべるなら、わずか 7日でも暦日
 と季節のずれは取り除いて考えたいものです。


◇新暦は西暦か?
 
  新暦(現在の日本で使われる暦:グレゴリウス暦)
   = 西暦(現在の西洋で使われる暦:グレゴリウス暦)

 と考えても現在は問題有りません。それは我々の使っている新暦は現在西洋
 (欧米でと言う意味ととってください)で使われる主な暦であるグレゴリウ
 ス暦と同じだからです。
 ところが、1582年のユリウス暦からグレゴリウス暦への改暦前の話を考える
 と、この関係は崩れます。つまり、

  新暦(現在の日本で使われる暦:グレゴリウス暦)
   ≠ 西暦(当時の西洋で使われた暦:ユリウス暦)

 と言うわけです。
 ここで、「新暦(現在の日本で使われる暦:グレゴリウス暦)」を比較の対
 象にするのはおかしいと思うかもしれませんが、ここを「当時の日本で使わ
 れた暦」としたら、そもそも当時は太陽暦を用いておりませんでしたので、
 比較自体が無意味です(違うに決まってますから)。

 我々は普段何気なく西暦と言いますが、西暦が《西洋で使われる暦》と考え
 ると、時代によって西暦は違う暦を指す可能性がありますから注意が必要で
 す。


◇「新暦」ではなく「西暦」を使った方がよい場合
 昨日号で1554年の日本でのクリスマスの日付については、当時の和暦の日付
 をユリウス暦の日付に変換して、それが 「12/24」であったと示しました。
 これは、「当時の西暦」はユリウス暦であり、この日クリスマスを催した宣
 教師達は当然その当時西洋で使われていた暦を使ってこの日にクリスマスの
 祝いを行ったわけですから、ユリウス暦で考える必要があります。

 この場合は、「クリスマスが行われた季節」が問題になっているわけではな
 いので、ここに敢えて現在の西暦、現在の新暦であるグレゴリウス暦の日付
 を用いる必要は有りません。
 ちなみにあえてそうすると、この日付は 12/24ではなくて、翌年の 1/3とな
 ります。グレゴリウス暦の日付を用いて 1/3と書いてしまっては、なぜその
 日がクリスマスになるのかわけがわからなくなってしまいます。

 日本で起きた出来事と、西洋で起きた出来事が関連する場合や、一つの事件
 が日本側と西洋側の双方で記録されたような場合、「西暦」を用いるときに
 は「当時西洋で使われた暦」を使わないと混乱します。過去に書かれた暦日
 は、その当時に使われた暦での暦日に決まっているのですから。


◇西行忌とユリウス暦
 もし、西行の亡くなった日を、その時代に日本を旅した西洋人が記録した日
 記が有ったとしたら、日付はきっと、

  1190/3/23 ・・・ 西行が亡くなった。桜は満開で、月は十六夜の月

 とでも書いてくれたかもしれませんが、残念ながらそうした事実はありませ
 ん。このように、西行の忌日は西洋とは無関係の記念日ですから、西行が亡
 くなった当時の西洋の暦であるユリウス暦にわざわざ変換する必要はありま
 せん。もし西行の亡くなった日付をユリウス暦へ変換する必要が有るとした
 ら、

  西行が亡くなった日に、ヨーロッパではこんな事件が有った

 という対照表を作るような場合だけではないでしょうか。
 

 本日は、少々ややこしい話でしたがご理解頂けましたか?
 昔の和暦の月日を新暦、西暦に変換する場合は、その変換によって何を知り
 たいのかという意味を考えないといけないということが解って頂けたのなら
 書いた目的は達せられたことになるのですが。 解りにくい説明だったかな
 ・・・と書いた本人が思っているので、伝わったかどうかちょっと不安です。

 解りにくかったとしたら、私の力不足。ごめんなさいです。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2007/02/25 号

こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック