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■「農暦」という名の誤解
 今日はちょっと毛色の変わったこぼれ話です。

 中国や台湾などでは、日本の旧暦にあたる暦を「農暦」と呼びます。
 この「農暦」という言葉は、旧暦を見直そうという方々にはよく知られてい
 て、この名前から農業に適合する暦として使い続けられているといった「間
 違った」話をして、それを根拠に旧暦は日本の気候に適合する暦であるなん
 て言う妄言を吐かれます。

 こうした方々からするとこの「農暦」という言葉には長い年月の農民の経験
 によって裏打ちされた暦という意味が望ましいのでしょうが、残念なことに
 この「農暦」という言葉はそんなに古いものでは有りません。中国四千年の
 歴史からすれば、ほんのちょっと前に生まれたばかりの言葉なのです。


◇「農暦」の言葉の生まれた時期
 中国では1912年から、公用暦は太陽暦となりました。
 1912年と言えば、日本では明治45年または、大正元年の年です。
 農暦という言葉は、それ以後公的には使われなくなった以前の暦、現在の暦
 より旧い暦ということで現在の日本で同じものを、「旧暦」と言う名で呼ぶ
 ような用法でこれを使うようになりました。

 確かに今年から考えると95年も前のことですから、随分昔という気もします
 が、それこそ四千年の歴史を誇るという彼の国からすれば、ほんのちょっと
 前の出来事です。


◇「農暦」は「農業暦」か?
 さて、日本では一般に「旧暦」と使うような使い方で中国や台湾などではこ
 の「農暦」という言葉が使われます。
 どういうところで使われるのかというと、都市部よりは田舎(例えば農村部
 とか)での使用が盛んでした。

 こうしたことから「農暦」という言葉が生まれたのです。
 この農暦ですが「農業暦」とか「農耕暦」が短縮されて「農暦」となったの
 ではなくて主に農村など、田舎の地域で使われたからそう呼ばれるようにな
 ったのです。

 日本でもそうですが、旧暦・農暦といったそれまで長く使われ続けてきた暦
 は、地域の伝統行事などと強く結びついていることから、そうした伝統行事
 がより多く残る傾向の強い田舎で都市部より長く生き残りがち。
 農暦が何かの言葉の省略形だとすれば、

   ○ 「農村暦」 ⇒ 「農暦」
   × 「農業暦」 ⇒ 「農暦」

 といったところと考えられます(当然、「○」が正解)。
 こうしてみると、この言葉にはどこにも、「旧暦を見直そう」という人たち
 が言う農業に適した暦という意味は有りません。

 元々、中国で太陰太陽暦が使われていた時代も、日本でそれが使われていた
 時代も、「暦を作る」ということは大変重大なことで、為政者だけがこれを
 独占的に行う権利を持つものであって、許可無くこんな私暦を作ったら大変
 重い罪にとわれましたから「田舎だけで使われる暦」なんて言うものは無か
 ったのです。


 このようなわけですので、

  「農暦は農業に適した暦として長く使われ続けてきた」

 何て言うことを書いているものがあったら、その内容は疑ってかかった方が
 賢明です。「農暦」というその名前だけで、くれぐれも誤解の無いように。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2007/06/18 号

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