こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■暦の誕生日は十一月一日
 年末になると、現在でも翌年のカレンダーが街の書店に並び売られ始めます。
 また、企業が販売促進の目的でカレンダーをお得意様や取引相手に贈るとい
 うような慣習もありました(最近は大分減った気がしますけれど)。

 こうしたカレンダーが登場するのは「年末」ではありますが、はっきりこの
 日からという決まりはありません。
 極端にいえば正月早々に来年分や再来年分を作ってもいいわけです。

 現在のカレンダーは閏年か平年かで 2月の日数が変化するくらいの変化で、
 あとは祝日や振替休日などを間違えずに書き入れられれば作ることが出来ま
 すから、「誰でも作れる」ものです。

 多少難しい点があるとすれば、最近は祝日に移動するものが増えたのでこれ
 や関連する振替休日、国民の休日をチェックして書き入れることくらいです。
 でもこの点でも最近は、祝日や休日を先々まで計算してくれる便利なWeb サ
 ービスなどが手軽に使えますからさほど問題ではありませんね。
 (例えば、「現在の日本の祝日日付一覧計算」
  http://koyomi8.com/sub/syukujitsu_table.htm など ・・・宣伝でした)

◇昔の暦は作るのが大変
 現在のように次の年のカレンダーが誰にでも作れるようになったのは、現在
 私たちが使っている新暦(太陽暦)に改暦されてからの話しです。それ以前
 の太陰太陽暦が使われていた時代は、来年の暦の日付を計算するということ
 はごく一部の専門の知識・技術を持った人たちだけでした(法律上も禁止さ
 れていましたけど)。

 これは、現在私たちがひっくるめて「旧暦」と呼んでいる暦を作るためには
 太陽が○○の位置を通過するのは何時か、新月となるのは何時なのかといっ
 たことを計算しないと暦が作れなかったからです。
 何せ毎月の日数が何日になるのか、来年が何ヶ月あるのかもこれを計算しな
 いと決まらないのですから、特別な知識を持った人以外は手が出せなかった
 のです。

◇十一月一日が暦の誕生日であるわけ
 さて、ようやく本日のタイトルにたどり着きました。
 既に昔は暦を作るのが大変だったという話しを書きましたが、ではこの大変
 な作業は誰が行ったかというと、平安の昔に遡ると

  暦博士

 という方々がこの「大変な作業」を行いました。
 暦博士というのは朝廷の正式な官職で陰陽寮という役所に所属していました。
 安倍清明(あべのせいめい)で有名なあの陰陽師達も所属した役所です。
 陰陽寮は当時の最先端の科学技術を取り扱う役所でした(陰陽五行説もこの
 時代には最先端の科学仮説でした)。

 この暦博士の主な仕事は何かといえば当然「暦を作ること」。
 暦博士は沢山の下役や暦生(暦専攻の学生)を使って来年の暦を計算して、
 天皇・中宮・東宮へ献上する暦と、中央官庁や地方官庁へ配布する暦の原稿
 をつくり、この原稿を所定の期日までに陰陽寮に提出していました。

 陰陽寮では暦博士から提出された暦原稿を元にしてこれを清書し、製本して
 中務省に提出。中務省ではこれを同日、天皇臨席のもとで

  御暦奏(ごりゃくのそう)

 という儀式を行い、天皇・中宮・東宮へ各一部(上下二巻)の暦と諸官庁へ
 配布するための頒暦百六十六巻を奏進します。
 この御暦奏を経て初めて暦は「正式な暦」と認められることになります。
 この御暦奏が行われる日付は毎年十一月一日と決められていましたから、つ
 まりこの日が暦の誕生日だったわけです。

 御暦奏が済めば、天皇用に提出された「御暦」はそのまま留め置かれ、他の
 暦はそれぞれに天皇から下げ渡されます。

 諸官庁用の頒暦は太政官がこれを賜い、ここから諸官庁へ 1部ずつ送られる
 ことになります。もちろん各官庁 1部の暦では足りるわけが無いので、これ
 を必要数だけ書き写します。当時は「紙」は貴重でしたから、代用として木
 簡などにも書き写されます。時々遺跡から発見される日付入りの木簡などは
 こうして書き写された木簡の一部だったりします。

 以上の事柄は律令制度がしっかりと機能していた頃の様子でしたが、これが
 崩れ、実際の作暦が幕府などに移ったあとも、

  翌年の暦の解禁日は十一月一日

 という伝統だけは生き残りました。
 今では日常で使う「暦」は誰でも作れる「カレンダー」となってしまい、十
 一月一日に特別な意味は無くなりましたが、神宮司庁が刊行する神宮暦(伊
 勢神宮暦)は十一月一日発刊としてこの伝統を守っているそうです。


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2008/11/01 号

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