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■星昴以て仲冬を正す
  日短くして 星昴(せいぼう)以て仲冬を正す 『書経・堯典』

 中国古代の政治の様子を記した書経(尚書)に書かれた言葉です。
 ここには暦に関係する言葉が三つあります。

  1.日短くして ・・・ 冬至の頃の意味。
  2.星昴 ・・・ 中国の星座。二十八宿の一つ昴宿。すばる。
  3.仲冬 ・・・ 三冬の真ん中。陰暦の十一月の異称。

 この短い言葉の中に三つも暦(と天文)に関係する言葉が含まれているわけ
 ですから、この言葉自体暦について語られたものだと言うことが想像出来ま
 す。これは当時、季節の動きにあった暦を作る場合の一つの指標を語った言
 葉です。意味は、

  日が短く、昴(すばる)が夜のはじめに南中する時期が
  冬至の目安で、この時期が正しい仲冬(陰暦十一月)の時期である。

 と言うほどのもの。冬至を含む陰暦十一月は、翌年の暦を作る起点となる月
 ですから、暦を作る上ではことのほか重要な月です。

 冬至は北半球では太陽の南中高度が最も低くなる日と言うことができますが、
 これは「言うは易く行いは難し」と言えるものの一つ。なかなか太陽の南中
 高度が一番低い日を求めるというのは難しい。

 そのため、別の方法でこの時期を知ることが出来ないかと考えます。今なら
 Web こよみのページで「冬至の日」を調べれば済むのですが、大昔にはまだ
 こよみのページが存在しませんから、仕方なく(?)考え出されたのが昴が
 南中する時間で冬至の時期を知るというもの。冒頭の言葉は、こうして生ま
 れたのです。

◇昴(すばる)
 昴は中国の星座の一つ、昴宿。星昴などとも呼ばれます。
 日本では「すばる」の呼び名で知られる星で、現在はプレアデス星団と呼ば
 れる散開星団がこの星の正体だと知られています。

 余談ですが、このすばる、「スバル」と書かれることも多くて、こう書かれ
 るとなんだか外来語のように思えますが、「統(す)ばる星」が語源だと考
 えられる歴とした日本語です。誤解の無いように。

 プレアデス星団は百数十個の生まれたばかりの若い星が集まった散開星団で
 すが、その中でも6〜7つの星が特に明るく、肉眼でもよく見えることから、
 日本では古くは「六連星(むつらぼし)」などともも呼ばれました。
 また連なった形から羽子板星などとも呼ばれます。

 日本では枕草子で「星はすばる」と星の中で一番に取り上げられたことでも
 判るとおり、美しい星の代表と考えられ、

  美須麻流之珠(みすまるのたま)

 とも称えられています。
 中国でも日本でも、またギリシャでも個別の名前を与えられているところを
 見ると洋の東西を問わずその美しさは人の目を惹く存在であったと考えられ
 ます。

◇昴の南中する時間
 現在なら正確な時計などゴロゴロしていますが、大昔には正確な水晶時計な
 どありませんでしたから、日の出や日の入りという判りやすく毎日起こる現
 象が時計の役割を果たしていたと推測されます。
 ですから、日が暮れて間もなく目立つ星が南中すると言った現象は観測する
 側にとっては大変有り難い現象だったはず。

 目立つ星、昴が日暮れから間もない時刻に南中するのを観測すると、冬至の
 時期が判るというのは暦を作る古代の天文学者には本当に有り難いことだっ
 たと思われます。だから書経にまでそれを意味する言葉が残ったのでしょう。

 さて今日は冬至を過ぎてまだ 6日です。まだ冬至の時期と言ってもおかしく
 はありませんから、夜のはじめに昴が真南に見える・・・ことはありません。
 現在、冬至の時期に昴が南中する時刻は21:30〜22:00頃。
 これだと、「夜のはじめ」の時間とは少々言いにくいですね。

 では書経に書かれた言葉がおかしいのかというとそれも違います。
 この違いが生まれたのは書経が成立した時代と現代との年月の隔たりです。
 書経の成立時期は孔子の生きた頃だと考えられていますから、今から考える
 と2500年程前。この2500年の隔たりが昴の見える時間を変えてしまいました。

 地球の「歳差運動」という現象のため、ほんの少しずつですが同じ季節でも
 星の見える時刻が変化して行きます。ほんの少しのずれではあるのですが、
 これが2500年分も積み重なるとこの差は目に見えるようになります。

 では、書経が成立した時代には昴が南中するのは何時頃かというと、現在の
 時刻で言えば、19:30 頃。書経成立以前にこうした観測の積み重ねが数百年
 分はあっただろうと考えるとこの時間帯は、19:00〜19:30頃と考えられます。
 なるほど、夜のはじめに昴が南中する頃が冬至の頃だったんですね。

  日短くして 星昴(せいぼう)以て仲冬を正す

 と言う一つの言葉に、季節の変化を感じるとともに星の見える時間が変わる
 ほどの年月の流れを感じた今日のかわうそでした。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2008/12/27 号

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