こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■正午30分過ぎは、何時何分?
 ことの発端はとあるAV機器の録画予約の際の不安から。
 ある時、日付が変わった直後から始まる番組を予約しようとしたときでした。
 日付を登録して、さて次に番組の開始と終了時刻を設定しようとしました。
 番組の放送時間は、

  午前 0時 0分〜午前 1時30分。

 自分では、今書いたとおりの数字を設定すればよいと思ったのですが、時刻
 その機械の示す時刻は、

  12:00AM 〜 01:30AM

 え? 午前 0時ではなくて、午前12時?
 それって変じゃないの? 本当に録画出来るのかな。

◇時刻についての定めた法律
 時刻、特に午前・午後を用いた表し方について何か定めたものは無いかとい
 うと、有ります。なんと、法律が有るのです。
 それも何と有名な明治改暦の詔書の最後に「時刻表」として書かれています。
 以下に必要な部分を抜粋して示します。

 太政官布告 第三百三十七号  明治五年壬申十一月九日
  (略)
 時刻表
 午前
  零時 即午後十二時 子刻
  一時 子半刻
  二時 丑刻
   (中略)
  十一時 巳半刻
  十二時 午刻

 午後
  一時 午半刻
  二時 未刻
   (中略)
  十一時 亥半刻
  十二時 子刻

 以上です。
 何だ、法律(太政官布告なんて古いものですが、今でも有効な法律です)に
 書いてあるのだから問題は解決ですね。
 と言いたいところですが、この法律にはおかしな点がいくつかあります。
 最初の疑問もあわせて、考えてみましょう。

◇12:00AM の問題。
 さて、私がAV機器を操作しながら不安に駆られた 12:00AMという表記につい
 てですが、これが「午前12時」を表しているとすると、この表記は法律の内
 容とは整合しません。時刻表の記述を見ると

  『午前 零時 即午後十二時 子刻』

 となっています。最後の「子刻」とはそれ以前に使われていた十二辰刻によ
 る時刻です。本当は「子刻」では無くて「正子」あるいは、「子ノ正刻」と
 あってほしいところですが、今回はこの点には目を瞑りましょう。
 前半の

  午前零時 即午後十二時 (午前零時、すなわち午後12時)

 とありますから、時刻設定画面では、

   0:00AM ないし 12:00PM

 として欲しかったところです。やっぱり午前は、午前で時間が進むに従って
 時刻の数字も進むのがあたりまえですよね。 12の次が 1っていうのは変。
 この表示では私が「本当に録画出来るんだろうな」と不安に思ってもあたり
 まえでしょう。

◇正午から30分過ぎると何時何分?
 さて、こうして問題は解決したかに見えたのですが、この問題解決の根拠と
 した改暦の詔書の時刻表には大きな問題があります。それは何か?
 午前と午後との書き出しと終わりの違いがその問題を生み出しています。
 午前と午後の書き出しの違いと終わりを見てみましょう。

 ・午前篇
  始め :零時 即午後十二時 子刻
  終わり:十二時 午刻

 午前は午前零時(すなわち午後十二時)から午前十二時までとなっています。
 では次に午後について同様に見てみます。

 ・午後篇
  始め :一時 午半刻
  終わり:十二時 子刻

 午後は午後一時から午後十二時までとなっています。
 さて、何が変ではないでしょうか。
 午後は午前と違ってなぜか、零時ではなくて一時からとなっているのです。
 では、午前12時(正午)を30分過ぎたら、この時刻は午前、午後? そして
 何時何分と言えばいいの?

  案1.午前12時30分
  案2.午後零時30分
  案3.午後12時30分
  案4.昼の12時30分 (または、24時間制の 12時30分)

 この改暦の詔書の文面と、午前11時から30分過ぎたら午前11時30分だろうと
 いう考えを延長すれば、案1となります。妥当な感じですが、正午を過ぎて
 「午前」というのはおかしいという問題があります。

 では案2かというと、午前について「零時 即午後十二時」なんてわざわざ
 書いているのに午後は「一時」から書いているのだから、午後零時という表
 現はないのかな。この詔書の午前と午後のアンバランスな書き方から疑問が
 生まれてしまいます。

 「まあ、改暦の詔書は慌てて作られたので、いろいろ間違いが有るのさ」
 と大目に見て午後の書き出しの部分は
  『午後零時 即午前十二時』
 と書くべきところを書き漏らしただけなんだと解釈してあげますか。
 それなら案2は及第点か。

 間違いだろうと言えるのは案3。
 なぜなら、「午前零時 即午後十二時」と書かれているのを見れば、午後12
 時は夜の12時を表すのは確か。ならば、午後12時を30分過ぎたことを表す午
 後12時30分という表現を昼に使うのはおかしいからです。

 案4はというと、改暦の詔書の時刻表に頼らない独自路線。
 独自路線案は間違いを差し挟まない点では有効な手だてですが、今回の問題
 を考える上ではちょっと反則の解決策です。まあ、反則でも解決策では有り
 ます。私個人としては、誤解を生じないこの案4がおすすめ。

 ただし、「本当はどれが正しいのですか」と問われても、これですと答えら
 れない問題です。このおかしな「時刻表」を載せた法律を国会議員の皆さん
 が早く「改正」してくれることを祈るばかりです。

◇時計と12時の関係
 「午前12時30分」なんて言う言い方は、今見てきたとおりどうも昼のことか、
 夜のことなのかはっきりしない曖昧な表現となってしまいますが、そんな曖
 昧な表現が生まれてしまったのはなぜかと考えると、どうも時計の文字盤の
 影響じゃ無いでしょうか。

 壁や柱に取り付けられた時計(アナログ時計)の文字盤を見ると、天辺の数
 字は「12」で、そこから 1,2,3・・・11と続いています。だからでしょうか、
 12時を少し過ぎた時刻をこの時計で読むと、零時×分ではなく、12時×分と
 言う具合に読んでしまうからなのでは無いかと推察します。

 さて皆さんの中では、「正午30分過ぎは、何時何分?」という疑問への答え
 は固まりましたか? それとも、余計混乱したとか?
 混乱させただけだった何てことにならないとよいのですが。

 ※改暦の詔書(太政官布告 第三百三十七号)は次の URLに置いてあります。
  ⇒ http://koyomi8.com/sub/koyomino_houritsu.htm

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2009/01/23 号

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