こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■一月は将来も冬なのか? 歳差と季節の話(3)
 昨日は、冬至〜次の冬至(冬至を春分、夏至、秋分という言葉に置き換え
 ても同じ)までの時の長さとして得られた一年(太陽年)の長さと恒星
 (星座の星々)が同じ時刻に同じ場所に見えるようになるまでの時の長さ
 として得られる一年(恒星年)の長さに違いがあることと、その差が歳差
 によって生じたものであることまで説明しました。

  太陽年 ≒ 365.2422日
  恒星年 ≒ 365.2564日
   差  ≒   0.0142日 (≒ 20分24秒)

 地球が太陽の周りを一周するのに要する一年の長さは星座の星々を基準と
 して計った恒星年の方です。太陽年が恒星年よりわずか短いのは、歳差運
 動(地球自転軸のスリコギ運動)によって一年の長さを測る基準とした、
 冬至点や春分点といったものが少しずつ前進してくるためです。

 運動場の400mトラックを一周走ってゴールテープを切ったら、自分が走っ
 ている間にゴールテープを持った人たちが自分の方に向かってゆっくり歩
 いてきていたようなものです。自分は400m走ったつもりでしたが、ゴール
 テープを持った人が近づいた分だけ走った距離は短くて、399mでゴールし
 てしまったようなもの。当然、記録は実際に400m走ったときよりも短いタ
 イムが記録されることになります。

 冬至から次の冬至までの時の長さを一年と考えると、この基準となる冬至
 点が少しずつ前進してくるため、実際に地球が軌道上を一周する周期より
 太陽年は短いものになってしまうのです。

 このちょっと短い太陽年で 26000年が経過する間に、地球は太陽の周りを
 何周したかを考えてみると

  365.2422 × 26000 ÷ 365.2564 ≒ 25999(周)

 実際は 25999回しか周回していないのに、 1回( 1年)多く周回している
 ように見えます。

 この余分な 1回分は、歳差運動の一回転分による見かけの回転なのです。
 私たちのご先祖様は、地球の自転軸の向きが変わるなどということは夢に
 も思わず、不変のものと考えて、月や太陽の動きを測る基準、座標系をつ
 くって来たわけですが、その不変と思っていた自転軸が動くものであった
 ため、月や太陽の位置を測ってきた座標系そのものが動いてしまっていた
 のです。

 このために事実上「動くはずのない恒星(星座の星々)が動いてしまう」
 という見かけ上の動きが起こったのです。北極星が現在はこぐま座のポラ
 リスで、 12000年後にはこと座のベガになってしまうという動きは、座標
 系の動きによって生まれる見かけ上の動きなのです。

◇話は戻って「一月は将来も冬なのか?」
 この話の発端は、歳差運動で地球の自転軸の向きが変わってしまったら現
 在は冬である一月が、春になったり、夏になったりすることは無いのかと
 いうokushin2さんからの質問でした。
 これまでの説明で、皆さんはもう質問の答えを見つけてしまわれたことと
 思います。その答えは、

  歳差運動で自転軸の向きが変化しても一月は冬のまま

 となります。
 種を明かせば簡単な話です。

 一月が冬なのは、一月が冬至(北半球の地球上では、太陽の南中高度が一
 番低くなるとき)の近くにおかれた月であるからです。そして現在の暦は、
 冬至から次の冬至(春分、夏至、秋分でも同じ)までの時の長さを一年
 (太陽年)とした暦で、この一年の長さには、はじめから歳差の影響が折
 り込み済みなので、この暦では何年経っても暦の上の冬至や春分などの日
 付は、現在から大きくずれることはないのです。

 okushin2さんからいただいた質問への回答は、以上で完了。
 大団円です。

※注意
 現在のグレゴリオ暦の日数計算方法では、一年の平均の長さは365.2425日
 と太陽年の365.2422日と若干差があるため、3200年に 1日程度の差が累積
 しますが、これは今回の話の本質とは関係のないグレゴリオ暦の置閏法の
 問題なので、ここでは触れませんでした。

◇大きな独楽の上で
 ここから先は大団円後の、おまけです。
 「歳差運動で自転軸の向きは変わってしまう」という話をしてきました。
 また、そうであっても、「私たちが使っている暦と季節の関係は変わらな
 い」という話もしてきました。その理由は、暦には歳差の影響が既に折り
 込まれていたからでした。

  昔の人はよく考えたものだ

 感心してしまいそうですが、考えてみれば私たちは太陽の周囲を歳差運動
 というスリコギ運動をしながら巡る巨大な独楽、地球の上に暮らす者です。
 そして、その独楽の上で太陽と地球との関係で生まれた季節の変化を表す
 ために暦をつくってきたのですから、歳差の影響が暦の中に折り込まれて
 いたということは、当たり前といえば当たり前。

 ご先祖様が冬至なり春分なりを基準に暦を作り始めた時から、図らずも歳
 差の影響を受けない暦をつくっていたのです(歳差の影響に気付くことも
 なく)。

 ちなみに、私たちが不動の大地の上に暮らしているわけではなくて、スリ
 コギ運動している巨大な独楽の上に暮らしていることに気付く切っ掛けと
 なる歳差の発見は、紀元前 2世紀頃、ギリシャの天文学者ヒッパルコスに
 よってなされたと云われています。

 ヒッパルコスは古い時代からの天文観測記録を点検する中で、春分点が前
 進していることに気付いたのでした。英語では歳差はprecessionです。こ
 れとよく似た言葉に precessが有ります。こちらの意味は「前進」。
 歳差が春分点の前進から見つかったことがその名前からよく分かります。
 以上、大団円後のおまけでした。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2012/03/17 号

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