こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■正と負の記念日
◇「福島」から「FUKUSHIMA」
 東日本大震災発災から、そろそろ 1年と半分が過ぎようとしています。

  1年半が経過して、まだ十分とは言えないにしても、被災した地域はそれぞ
 れに復興に向かっていますが、そんな中で、直接の自然災害とは違った問題
 が復興の障害となっている場所があります。

  FUKUSHIMA

 震災前には「福島」だったのに、今は「FUKUSHIMA」 とか「フクシマ」と書
 かれることが増えてしまいました。

 以前は「福島県はどこにあるでしょう」というクイズが出来るくらい、日本
 国内でも目立たない県でしたが、今では「FUKUSHIMA」 として世界的にもよ
 く知られた場所になってしまいました。

 「福島」が「FUKUSHIMA」 と呼ばれてしまうようになったこの 1年半は、ず
 っと昔に忘れてしまっていた放射能や放射線といった言葉が再び身近に感じ
 られるようになった 1年半でもありました。

◇広島と長崎
 今年も広島原爆の日と、長崎原爆の日が近づいてきました。

 ・ 8/6午前 8時、 B29爆撃機エノラ・ゲイ号が広島市上空に原子爆弾リトル
  ボーイを投下した。実戦に使用された最初の原子爆弾であった。
 ・ 8/9午前11時、 B29爆撃機ボックスカー号が長崎市上空に原子爆弾ファッ
  トマンを投下した。実戦に使用された二番目の原子爆弾であった。

  8/6,8/9の記念日データにはよく似た記述が続きます。この両日は、人類が
 初めて放射能や放射線という言葉に注意を向けた日といえるでしょう。

 記念日は何か特別なことがあったことを忘れないように暦の上に記された日
 です。記念日の多くは、目出度いことで占められます。
 人間誰しも目出度い出来事のあった過去を思い出し、その出来事に感謝する
 とともに、その出来事が起こった時と同じように祝うことで再びそうした目
 出度い出来事を招来しようと考えるものですから。

 この一方で少数ながら、つらい思い出の日も記念日のリストの中には含まれ
 ています。前者の記念日を「正の記念日」だとすれば後者は「負の記念日」
 かもしれません。

 正の記念日は、思い出したい記念日でしょうから記念日リストに載るのは当
 然ですが、思い出したくない負の記念日がリストに残るのはなぜでしょう。
 それは、思い出したくない日ではあっても、思い出さなくてはならないとい
 う正の記念日以上に強い意味があるからではないでしょうか。

 正の記念日が生まれるのは自然な感情の発露で、負の記念日は理性によって
 生まれるともいえるかもしれません。
  8/6,8/9はそうした、負の記念日です。

 広島への原爆投下では14万人が、長崎への原爆投下では7万4千人がその日の
 うちに死亡。原爆症等でその後亡くなった方も含めればこの倍以上の方々が
 亡くなっています。

 この原爆投下の年からすでに67年。
 人間でいえば 2世代から 3世代分の年月が経過しています。
 人間一人一人の記憶はそれを引き継ぐことが出来ませんから、 2世代 3世代
 分の歳月が過ぎ去る間に、そうした個人の記憶は失われて行きます。

 一人一人の記憶が失われて行く中、それでも人類全体の記憶の中からは消し
 去ってはならない日として、年ごとにその日を確認する日が、広島と長崎の
 原爆忌なのかもしれません。

◇再び「福島」へ
 67年が経過し、広島、長崎の原爆忌という負の記念日でもなければ、思い出
 すこともなくなっていた放射能や放射線といった言葉とその恐怖をこの 1年
 半は再び思い出し、身近に感じることになったのではないでしょうか。

 ただ、今は恐怖を身近に感じすぎて、ともすると感情ばかりが先行してしま
 って、まともな議論も為されず、冷静な視点からの分析や有効な対策までが
 感情的な世論によって封殺されかねないような状況にあるように私には思え
 ます。

 感情的には思い出したくない負の記念日を理性によってカレンダーに残し、
 忘れてはならない日としたように、恐怖によって暴走する感情を理性によっ
 て制御し、「FUKUSHIMA」 という言葉によって象徴される危機、風評による
 その地域への謂われのない差別感などを乗り越えて行きたいものです。

 広島、長崎の原爆忌という負の記念日に、67年前に両都市で起こった惨劇を
 思い出し、再びこれを繰り返さないことを誓うと同時に、「草木一本生えな
 い」とまで言われた状態からこの二つの都市が復興した事実も思い出しまし
 ょう。

 「FUKUSHIMA」 もまた、広島、長崎のように復興し、再び「福島」というあ
 るべき姿に戻り、忘れてはならないカレンダー内の負の記念日として、言葉
 としてだけ「FUKUSHIMA」 を思い出せる日が早く到来することを願っていま
 す。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2012/08/05 号

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