こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■(再々)潮汐の話
 直接暦の話というわけではないのですが、カレンダーや新聞の今日の暦欄に
 はその日の満潮・干潮時刻が記載されていることが多く、またこよみのペー
 ジ宛に潮汐に関係する質問をいただくことも多いので、暦のこぼれ話に採り
 上げてみました。

 潮汐に関しての私の知識は天文に関係するごく一部のもので、ごく一般的な
 ことしか解らないのですが、質問を見ているとその

  ごく一般的な知識

 から見ても誤解しているのが解るものが沢山あるので、常識でも解る潮汐の
 話を本日は書いて見ようと思います。

◇本題前に、ちょっと宣伝
 Web こよみのページには潮汐に関係するページがいくつかあります。
 あんまり知られていないようなので、まずはちょっと宣伝。
 お暇があればいつかのぞいてみて下さい。

 ・月齢カレンダー
  http://koyomi8.com/moonage.htm
  カレンダー内に大潮・小潮等のその日の潮の大きさが記載されています。

 ・各地の潮汐計算
  http://koyomi8.com/tide.htm
  日本各地( 201地点)の指定した日の潮汐の予報計算が出来ます。
  目次から「その他の暦日計算」→「各地の潮汐計算」と進んで下さい。

 ・出産は満月の時? (暦と天文の雑学)
  http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0900.htm
  出産日と潮汐の関係についての解説記事です。

◇満潮=大潮 ?
 宣伝した「出産は満月の時?」という記事は出産に関係するサイト、ブログ
 で取り上げられることがあります。
 記事のタイトルは「出産は満月の時?」ですが、書いている話の内容は出産
 は満月、新月といった潮汐の「大潮」と呼ばれる時期にやや集中している
 (平均より1〜2割程度増加する)というものです。

 さて、こうした話とともに昔からの言い伝えに「人は満ち潮の時に生まれ、
 引き潮の時に息をひきとる」というものがあるようです。

 こうした傾向が本当にあるのかどうか、私には判りません(疑わしいのでは
 無いかと思います)が、私にとって困ったことはこの満ち潮、つまり満潮と
 大潮という言葉が混同して使われることです。この結果、

  「満潮の時に出産が増えるとお書きですが・・・」
  「いつ頃生まれるか知りたいので、今日の大潮の時間を教えてください」

 と云うメールを頂いたりするのです。
 満潮と大潮が混同されているのがありありとわかりますね。。

◇大潮は毎月、満潮は毎日
 潮汐が起こる原因として、月と太陽の動きが重要だと云うことはご存知のこ
 とでしょう。地球の潮汐は、月による起潮力と太陽による起潮力が合成され
 た力によって生み出されています(惑星の起潮力もあるにはありますが、月
 と太陽に比べればほとんど 0なので無視しても問題ない)。比率は月 を1.0
 とすれば太陽はその半分の 0.5程。

 この潮汐の主役の月と脇役の太陽の起潮力が一緒になるとその強さは、一緒
 になって強くなる場合と分散して弱くなる場合があります。

  1.0 + 0.5 = 1.5 ・・大潮:月と太陽の起潮力が合わさって強くなるとき
  1.0 - 0.5 = 0.5 ・・小潮:月と太陽の起潮力が分散して弱くなるとき

 と考えて頂けると解りやすいと思います。とても単純ですが、こうしてみる
 と同じ起潮力でも大潮のときは小潮の 3倍も強いことになります。
 この「力が合わさる」状態とは、月の満ち欠けで言えば新月の時と満月の時、
 つまり太陽・月・地球が一直線に並ぶような位置関係になるときと一致しま
 す。そして力が強くて一日の海の干満の差が大きくなるのでこれを大潮と
 呼びます。

 それに対して太陽・月・地球の位置関係が一直線から一番離れる時(90°の
 角度になる時)、力は弱くなり一日の海の干満の差は小さくて、この時期
 が小潮と呼ばれます。この時の月の形はというと、半月の頃です。

 新月、満月はそれぞれ一月に 1回ずつ計 2回、半月は上弦と下弦の半月の計
  2回(いずれも「ほぼ」です)。ですから大潮の時期も小潮の時期も同じく
 一月に 2回ずつ、つまり大潮・小潮は「月毎」に起こる現象と言えます。
 これに対して満潮、干潮はといえば新聞を見て頂ければ

  明日の満潮は○○時と●●時、干潮は△△時と▲▲時

 のように毎日 2回ずつあります(時々は 1回ということもありますが)。
 つまり満潮、干潮という現象は「日毎」の現象と言えます。

 このように満潮、干潮は毎日起こりますが、大潮や小潮が毎日あるわけでは
 無いのです。

◇月と太陽の起潮力によって海水が引っぱり上げられて満潮になる?
 よく聞く大きな誤解にこの「海水が引っ張り上げられて満潮になる」という
 ものがあります。

 もしこの話が本当であれば、月や太陽の起潮力は地球上どこにでも働きます
 から、海でなくとも湖や沼や池でも毎日満潮と干潮を見ることが出来るはず
 です。それどころか、家のお風呂や、コップの中の水まで干満をおこさなけ
 ればおかしいはずですが、多分どなたもコップの水の満潮と干潮を目撃した
 ことは無いでしょう。

 海で干満が起こる最大の理由は、月や太陽の起潮力で「引っ張り上げる力」
 が働いた部分ではこの力の分だけわずかに海水が軽くなるように見え、する
 と、この部分の水圧が低くなりますから、その周囲のより水圧の高い部分か
 ら、海水が流れ込んできて起潮力が強く働く箇所に沢山の水が溜った状態を
 生み出します。これが満潮です。海の干満はこの「海水の移動」が必要なの
 です。

 お風呂やコップの水が干満をしないのは、そんな狭い範囲では起潮力の大き
 さの差がほとんど無いことと、外から流れ込む水がどこにも無いことにより
 ます。もし、差し渡し1000kmもある巨大なお風呂をお持ちの方がいれば、ご
 自宅のお風呂でも満潮と干潮が観測出来るはずです。
 ちなみに、「ほぼ閉じた小さな海」である日本海の干満の差が太平洋の干満
 等に比べてずっと小さいのは、このためです。

◇潮の干満と起潮力の大きさの変化の時間的な差
 このように海の干満には「海水の移動」が必要だということから、海の干満
 の変化と、月や太陽が生み出す起潮力の大きさの変化の間には時間的なずれ
 が生じてしまいます。

 お風呂の水を抜くようなもので、排水口が小さければ、水が抜けるのに時間
 がかかるように、海水だってその流れる経路の広さ(断面積)が狭ければ、
 流れるのに時間がかかってしまいます。また経路が長くなればなるほど、通
 過に時間がかかってしまいます。

 日本でいえば、瀬戸内海などはこの影響が顕著です。それは瀬戸内海は狭く
 て浅い海でかつ細長い海ですから、同じ瀬戸内海でも場所が違うと満潮の時
 間が何時間も違うことがあります。
 もし、干満の時刻が起潮力の大きさ変化に完全に連動するとしたら、地球全
 体から見ればほとんど同じ場所と言える瀬戸内海でこんな時間差が生じるは
 ずはありません。

 海の干満に月や太陽の動きが関係していることは誰でも知っていることです
 が、この誰でも知っていることには随分沢山の「誤解」も含まれているよう
 です。

◇「人は満ち潮の時に生まれ引き潮の時に息をひきとる」?
 最後にちょっとおまけ。
 既に書いたとおり、「人は満ち潮の時に生まれ引き潮の時に息をひきとる」
 という言い伝えは疑わしいと私は考えています。

 ・満潮、干潮の変化に要する時間は短い
 ・起潮力の大きさの変化と海水の干満の時刻には大きなずれがある
 ・海が無い場所ではどうなるの?

 ことがその主な理由です。

 ・まず1つ目の点。
 出産は何時間も時としては十時間以上もかかってしまう大仕事。それに対し
 て潮汐の満潮と干潮(大潮と小潮じゃありませんよ)の変化の周期は大体 6
 時間。出産に何時間もかかっているうちに満潮が干潮に、ひょっとしたらそ
 の干潮がまた満潮に・・・なんて変化をしているはず。干満の変化が出産や
 死に何らかの関係があったとしても、干満の変化に要する時間が短すぎて、
 どの満潮、どの干潮が関係したのか、その相関を見極めることは出来ないの
 では無いでしょうか。

 ・次に2つ目の点。
 地球全体で見れば点のような狭い地域である瀬戸内海ですが、満潮・干潮の
 時刻はずいぶん違うと書きました。鳴門の渦で有名な鳴門海峡では、わずか
 数キロ違った場所で、満潮と干潮のタイミングが逆になってしまいます(隣
 接した場所の満潮と干潮の時刻が大きくずれるために起こる水位差が鳴門海
 峡で渦を生み出すほど早い潮流を生み出しています)。
 「満潮の時刻に人が生まれる」とすると、鳴門海峡に近いような場所で生ま
 れる赤ちゃんは、

  どっちの満潮の時に生まれるべきか

 と、生まれる前から悩まないといけないですね。大変だ。

 ・最後に3つ目の点
 「娘が今日出産するので、満潮の時間を教えてください」
 という問い合わせを受けた事があります。
 満潮の時刻を知るためには、知りたい場所がわからないといけないのでそれ
 を尋ねたところ、答えは

  「長野県の諏訪市です」

 さて、私はどこの満潮を答えるべきだったのでしょうか。
 海が無くとも地球上ではどこでも月や太陽の生み出す潮汐力が働きますが、
 瀬戸内海の例を引いて説明したとおり、潮汐力が最大になる時刻に満潮が起
 こるわけでは無いので、長野県諏訪市で潮汐力が最大となる瞬間を満潮の時
 刻とするわけにもいきません。

 こんな事を考えてみて、どうも件の言い伝えは眉唾じゃないかなと考えるに
 至ったかわうそでした。
 皆さんは、どう思われますか?

 ※この記事は以前書いた記事に、最後の「おまけ」を付け加えたものです。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2013/03/17 号

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