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■月の大小と大小板
 月(暦月)の大小を覚えるための「ニシムクサムライ」の話を書いたばかり
 ですので、本日は月の大小を示すために作られた「大小板」の話を書いてみ
 ます。

◇月(暦月)の大小
 まず、そもそも月の大小がなぜあるかという話です。
 太陰暦、あるいはその修正版である太陰太陽暦は月の満ち欠けの周期(これ
 を「朔望月」といい、平均するとすると約 29.53日。ちなみに、平均した朔
 望月は、もちろん「平均朔望月」と呼ばれます)を使って暦の上の月、暦月
 を区切る暦です。

 暦月を朔望月で区切るといっても、その長さは29日とか30日と云う具合にぴ
 ったり整数の日数になってくれませんので、その端数(少数)部分の扱いが
 問題になります。だって、

  「今日の午前10時25分までは、10月29日で、その後は11月 1日になる」

 なんて、一日の途中で暦月や日付が変わってしまうような暦では、使いにく
 くてたまりませんので、そういうことが起こらないように、暦月の日数をう
 まく整数に納める工夫が必要になります。
 その工夫として考え出されたのが月の大小です。

 月の満ち欠けの周期は平均すると約 29.53日。どうせ「約」をつけるなら、
 もう一息省略して「約29.5日」と考えれば、暦月の日数を29日と30日とし
 て、これを交互に並べれば平均して29.5日という周期をうまくあらわすこと
 が出来ます。

 もちろん、一つ一つの暦月を見れば日数が朔望月より短い月と長い月が出来
 てしまうのですが、その差はわずかです。それに29日と30日の暦月を交互に
 並べればよいだけなので仕組みは至って簡単。
 このようなわけで、暦月には29日の小の月と30日の大の月が生まれました。

◇大小板
 さて、先の話のままならば話は単純明快だったのですが、この単純明快な話
 に水を差す問題があります。
 一つは、平均朔望月の日数は29.5日ではなくて、29.53058・・・日だという
 こと。もう一つは、平均朔望月はどこまで行っても、所詮は「平均」の値で
 あって、一つ一つの朔望月の日数は変動する(とはいえ、29〜30日の間には
 入りますが)と云うことです。

  「まあ、1日くらいの差ならいいんじゃない?」

 と、思ってしまう私のようなずぼらな人間ばかりならよかったのですが、そ
 れでは我慢できない人、あるいは我慢できない事情を抱えた人がいて、出来
 る限り、現実の月の朔望と暦月を一致させようと考えるようになりました。
 そうした人達の努力の結果が、精密な太陰暦、太陰太陽暦として結実しまし
 た。

 大変精密な太陰暦、太陰太陽暦が出来たのは「目出度い」ことと云えるかも
 しれませんが、手放しで目出度いとは云えない問題も生み出してしまいまし
 た。それは、「何月が小の月で、何月が大の月なのか難しい計算をいっぱい
 しないとわからない」というものです。

  A氏:あれ? 来月って大の月だっけ、しょうの月だっけ?
  B氏:よし、計算して教えてやるから、ちょっと待ってくれ。

   (・・・B氏は計算を始め、A氏は「ちょっと」待つ・・・)

  B氏:この間の質問の答だけど、分かったよう。大の月だ!
  A氏:この間の質問て、あの先々月にたずねた話か? あのときたずねた
     「来月」はもう先月になっちゃったよ。確かに「先月」は大の月だ
     ったけどね。

 何てことになる。ここでは答は正解だったことにしましたけど、こんなに計
 算したあげく、計算間違いで不正解だったら目も当てられない悲劇です。

 こんなのは、極端な例だろうと思われるかもしれないのですが、そうでもあ
 りません。日本で太陰太陽暦(いわゆる旧暦という暦)が使われていた時代
 は、来年の暦が発行されるまでは、一般の人々は本当に来年の正月が大の月
 なのか、小の月なのかも分からなかったのです。

 その上、「ニシムクサムライ」の話で書いたとおり、月の大小の並びは毎年
 変化するので、うっかりすると

  「あ、大の月だと思って、まだ1日あると思ってたら、
   月が変わっちゃった・・・」

 なんていうミスを犯してしまいます。
 江戸時代は、出入りの商人への払いは、いつもニコニコ現金払いではなくて
 月末一括払いが当たり前という商習慣があったようなので、「大の月と小の
 月を間違える」のは、笑い話では済まない。
 ということで生まれたのが「大小板」という道具。

 この道具、町中の商家の店の軒先などに吊られたもので、「大」と「小」と
 いう文字が表と裏にそれぞれ書かれていたり、うまくデザインして、取り付
 ける角度によって、「大」と読めるときと「小」と読めるときがあるように
 したり、いろいろ工夫(楽しんでる?)した板でした。

 道行く人たちは、この大小板の文字を見て「今月は大の月だ」「小の月だ」
 と確認出来たわけでした。商人達もこれで確認して、間違いなくその月の末
 日である晦日には、確実に集金してまわることが出来たのでした。

 月の大小を間違えることなど無くなった(驚くことに、「11月って31日まで
 じゃ無いんですか!」という質問メールをもらったことがありますけど)現
 在は、大小板の存在意義は無くなり、街角からはその姿が消えてしまいまし
 た。

◇太陽暦と「暦月」
 太陽暦は、太陽の位置によって一年という周期を求め、これにもとづいて組
 み立てられた暦です。生活する上で、1年という周期は長いので、もう少し
 短い期間を暦の上に示したいという考えは分かりますが、その場合の1年の
 分割数は10でも、20でもよかったはずです。

 しかしそうはならずに1年を12に分割していること、その分割した「月」に
 30日と31日という「大小」があること( 2月は例外的に、28or29日ですが)
 を見ると、現在の太陽暦も、その生まれたばかりの時代には太陰暦だった名
 残なんだろうなと考えられますね。

 ついでに、月の朔望の周期を 1/4(新月・上弦半月・満月・下弦半月)にさ
 らに細分すると、その日数は約7.38日。
 あれ、 7日って・・・。
 現在の暦にも太陰暦の痕跡は至る所に残っていますね。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2013/11/10 号

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