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■暦によって「日の干支」が違う?
 とある調べ物をして、インターネット検索をしているときに

  「書籍によって日の干支が異なるが、どれが本当に正しいのか」

 といった内容の書かれた質問が引っかかってきました。
 これを読んで、当然のように私も「引っかかって」しまい、その質問内容を
 読んでしまいました。

 検索に引っかかったのは、Yahoo! 知恵袋。インターネット上で、利用者が
 それぞれの知識や知恵を持ち寄って、疑問を解決しようという知識検索サー
 ビスの一つです。暦に関する質問等に関しては、参考サイトとしてWeb こよ
 みのページを紹介してもらうことも多く、私もそういう意味では恩恵に浴し
 ております(昔は、自分でも回答を書いたことがありましたが、最近はめん
 どくさくて・・・)。

 引っかかってきた記事は、次のURL に掲載されています。
 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1070107455
 ネットのことなので、この質問のページ自体が消えてしまうことも考えられ
 るので、必要な箇所を引用して起きます(長くなりますがご容赦)。

 ----------------------------- 引用 ---------------------------------
 書籍版の万年暦とネット版やiPhone4アプリ版の万年暦とでは、年盤や月盤
 は同じなのですが、日盤が違っています。
  (中略)
 具体的にどう違っているのかを以下に述べます。たくさんのメディアのなか
 でも、違いは二分されます。ひとつは、東洋書院刊の『精解吉祥万年暦』と
 私が通っている気学の会の手帖とが同じで、2011年8月29日の日盤は「一白
 ・甲申」ですが、それに対してiPhone4 の日本製有料アプリ「万年暦」では
 「二黒・丙辰」になっています。
  (中略)
 いったいどれが本当に正しいのでしょうか? また、その正しいとする根拠
 は何なのでしょうか?ご教授いただければ、・・・
 私のみならず、世の混迷に終止符がうたれんことを。
 ------------------------- 引用 ここまで ----------------------------

 ということです。「世の混迷に終止符がうたれんことを」という結びの一文
 が涙を誘います。ということで、この混迷の謎を探ってみました。

◇日の干支とは?
 日の干支とは、1日毎に割り振られた六十干支のことで、

 ・・・ → 甲子 → 乙丑 → 丙寅 → ・・・ → 癸亥 → 甲子 → ・・・

 と六十干支が延々と循環して行くものです。
 東洋の暦では、殷の時代から使われ続けているといわれるもので、ただ延々
 と60日サイクルで巡るだけという単純な規則で決まるものなので、「日」を
 特定するのに便利だということで、東洋の暦には必ずといってよいほどこれ
 が書き込まれてきました。

 最近は、日の干支を「占いに使うため」だけに気にする方が多いせいか、こ
 の日の干支が占いの一種として発明されたものと勘違いされ、「占いの流派
 によって異なる」なんてことがあると思われるようです。
 が、これは間違い。

 既に述べたとおり、東洋の正規の暦には、ずっとこれが書き込まれていまし
 た。占いはそれを利用しただけで、占いのために日の干支があるわけではあ
 りません。

 件の質問者の方も、ちょっとした計算方法の違いで二つの答えが出てきてい
 るのか? どっちが正しいの? といった、軽い気持があるような気がしま
 す(ご本人がお困りの程は分かりません)が、日の干支に関しては、これが
 何処かで違っているなんて云うことになると、これは大変なことです。

  東洋の歴史が変わっちゃう!

 のです。
 既に書いたとおり、日の干支は東洋の暦にずっと書かれてきたもので、1日
 毎に順番に変化するものですので、閏日が入ろうが、閏年が入ろうが、改暦
 があって、暦の計算方式が変わろうが、日の干支の順番が変化することはな
 いので、度々改暦があったり、いつ閏月が入ったかを確認するのは大変とい
 う時代には、

  何かがあった日を特定するには、日付(月日)より日の干支の方が確実

 だったのです。ですから、出来事を記す場合に日付の代わりに、あるいは日
 付とともに、日の干支を書くのが東洋の史書の常でした。
 つまり、何処かで日の干支の順番がずれていたなんて云うことになると、史
 書に書かれた事件のあった日が別の日になってしまう大変なことなのです。

 実は、2ヶ月ほど前に、私も似たような質問をいただいて、メールで二三度
 やりとりをしたのですが、質問者があまりにも暦についての基礎知識がない
 ため、確認しようにも、その手がかりになる情報が得られなかったとこがあ
 ります。

 質問してきた方は、「どっちが間違っていて、どっちが正しいというような
 ことを調べたいのではなく、ずれてしまう理由を知りたい」とおっしゃって
 具体的な例を示してくれなかったのですが、日の干支に関しては、それがず
 れているとしたら

  「どっちが正しくて、どっちが間違っている。
   あるいはどっちも間違っているか」

 であって、それぞれがそれぞれに正しいということはあり得ません。
 説明のしかたがまずかったのか、最後まで、質問者にはご理解いただけなか
 ったのですが。

◇手がかりの日付
 私が欲しかった「具体的な例」とは難しいものではありません。欲しかった
 のは、

  「何年何月何日」の「日の干支」がどうなっているか

 だけだったのですから。
 先に引用した書き込みには、この私の欲しかった情報がありました(と、い
 うほど、大変な情報じゃないですが)。

  2011/8/29 が「一白・甲申」と「二黒・丙辰」の二通りある

 ということです。これだけ分かれば。ちなみに「日の干支」は「甲申」「丙
 辰」の方。一白とか二黒とかは、「一白水星」とか「二黒土星」という、九
 星占いで使うもの。こっちは占いの話なので、流派による違いがあろうが無
 かろうがどうでもいいのですが、問題は甲申と丙辰の違いです。

 この具体的例の他に、この問題を調べる好条件がもう一つ。
 質問にあった「東洋書院刊の『精解吉祥万年暦』」は私の本棚にもあったの
 です(ただし、『精解吉象万年暦』が正しいタイトルでしたが)。

◇結論は・・・
 これほど引っ張ってきた割に、結論はあっけなくつきました。

  2011/8/29 が「甲申」と「丙辰」のどちらが正しいのか

 の答えは、「どちらも正しい」でした。
 こう言うと、先に書いた話と矛盾するじゃ無いかと言われそうですが、こう
 なる理由は、例示された日付がどの暦の日付かということでした。種明かし
 は簡単。

  新暦の 2011/8/29 は 「丙辰」
  旧暦の 2011/8/29 は 「甲申」 (この日の新暦の日付は、2011/9/26)

 と「日付は同じでも別の日」だったから日の干支も違って当然です。
 日の干支の説明で、「改暦があって、暦の計算方式が変わろうが、日の干支
 の順番が変化することはない」と書いたのはこうした意味です。

 質問者が違っているとおっしゃっていた片方の資料、「精解吉象万年暦」も
 表を見るときちんと新暦の日付でも旧暦の日付でも、どちらでも九星・日の
 干支が引け、その表を正しく引けば、

  「世の混迷に終止符がうたれんことを」

 という質問者の願いは、その段階で成就したはずなのです。
 (資料は使い方を知って、正しく使いましょう・・・ってことですかね?)

 現在は、日付を示す場合に「その日付はどの暦(暦法)による日付か」とい
 うことを意識することはまず無いはずです。日常生活に新暦以外の日付を使
 っているという方は、まずいらっしゃらないでしょうから。

◇情けないと思うこと
 占いを信じる信じないは、その人の勝手だと思うのですが、私が情けないと
 思うのは、暦を使って運命を占おうかなと思う方の暦に関する理解が、日の
 干支とはどんな仕組みで割り振られているのかという、暦の世界では常識中
 の常識というようなことも知らないまま、暦を使ってしまうこと。

 占いを信じるのは勝手ですが、「運命」なんていう大層なものを扱うならば
 もう少し、その基礎となる事柄を把握した上で行うべきでは。日の干支の仕
 組みも分からずに、暦を使って占いをしようなんて、土台も作らずに高層ビ
 ルを建てようとするような話だと思います。

 もちろん、そうした基礎をしっかり知った上で占いをたてる方々が、大部分
 だとは思います(思いたい)けれど。

 ちなみに、件の質問は2011年と古いものでしたが、これに対して書かれてい
 た回答は、これまた「トンチンカン」なものでした。
 私のように検索でこの質問にたどり着き、そしてその「トンチンカン」な回
 答を読んで、納得してしまう人がいたら大変なので、今からでも、回答を書
 いておいた方がいいのかな?
 ああ、めんどくさい・・・けど。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2014/10/18 号

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