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■暦作りは命がけ? 義と和の日食予報
 歴史を書き残すことに熱心な中国(古代の。今の中国は違うようです)の史
 書の中で最古とされるものは書経です。
 書経は、本来は「書」とか「尚書」と呼ばれていたようですが、現在は書経
 という呼び名が一般化しています。

 書経の中身はというと、堯舜といった神話の時代の皇帝たちの言行録から始
 まり、春秋時代の歴史まで記録されています。
 「神話の時代から」としたとおり、全部が全部正確な記録とは言い切れませ
 んが、「でも、きっとこんな事があったんだろうな」ということをうかがわ
 せるものがあります。その中に義と和の日食予報の話が登場します。

◇義氏と和氏の日食予報失敗
 義氏(本当の義氏の「義」は、もっと難しい文字ですが文字化け確実のフォ
 ントなので、ここは「義」の文字で代用させていただきます)と和氏という
 暦作りを担当していた天文学者の二人がある日、大酒を飲んでしたたかに酔
 い、そのために仲康五年の最後の月の一日(朔日)に起こった日食の予報が
 行われていませんでした。

 当日、突然起こった日食に人々は大慌て、役人も何が起こったかわからず、
 都の中は大混乱という事態が発生しました。
 この事件は作暦についての一大汚点となって、書経に記載され、そして4千
 年も経過した現在の私達にも

  お酒は怖い

 という教訓を与えてくれています(教訓の内容が違うかな?)
 で、当の義氏と和氏はどうなったのかというと、法律に則りその責任をとる
 ことになりました。作暦失敗の量刑はというと・・・

  死刑!!!

 でしたので、哀れ二人は刑場の露と消えたことになります。
 ああ本当にお酒は怖い(って、やっぱりちがう?)。

◇義氏と和氏の失敗した日食が起こったのはいつ?
 多分人類最古の「日食予報失敗の記録」である義氏と和氏の失敗した日食は
 いつかということは、ちょっと気になるところですね。

  「仲康五年の最後の月って年月日があるじゃ無いか」

 と鋭い読者の方々なら、即座に指摘されることでしょうが、ここはまだ神話
 の世界に属する年代での話。何処の国の神話でもあるように、この辺りの歴
 史(というより物語)はご都合主義で、ある支配者の事跡をつなぎ合わせる
 と、その人物の年齢は何百歳にもなっちゃうなんていうこともしばしば。
 年月日があるからと言って、現在の暦の年月日に簡単に置き換えられるもの
 ではありません。

 しかし、この記述には手がかりがあります。
 それは、日食があったということ。それと、人々の大慌てぶりなどから考え
 ると、ちょっとした部分日食程度ではなくて、皆既日食かそれに近いくらい
 の食分の大きな日食だったということです。さらに日食は観測地が地球上の
 何処であるかによって見え方が大きく変わることから、この記録が残った頃
 の中国の都の位置で見ることの出来る日食ということで絞り込むことができ
 ます。

 中国の唐時代に大衍暦という暦法を完成させた僧一行という天文学者がこの
 義和の日食の年の決定に挑戦しました。そして得た答えが

  紀元前2128年

 ということです。今から考えれば4200年以上も前に日食予報がなされていた
 と考えると、「中国恐るべし」です。

 それ以降も様々な天文学者がこの日食の年を求める挑戦を続けましたが、残
 念ながら状況を正確に再現できる年が見つからず、現在では義和の日食の話
 は作り話というのがほぼ定説化しています。

 まあ、「大酒を飲んで予報に失敗」という点からしても、既に作り話の匂い
 がしますけど。なんて云っても作暦の作業は大変。今ならコンピュータなん
 ていう超人の手助けで計算自体はすごく早くなりましたが、これが無かった
 時代は、それこそ一年がかり(あるいはもっと長い)月日を要する計算でし
 たので、毎日毎日大酒を飲み続けてでもいなければ、こんな事は起こりませ
 んからね。

 ただし、作暦に失敗した天文学者は死刑という法律はあったようですから、
 歴史に残ることなく死刑となった天文学者は一人や二人ではなかったとおも
 います。

 こうした名もない天文学者達の話をつなぎ合わせて作られたのが、義和の日
 食予報失敗の話だったのではないでしょうか。
 細かな計算を延々と続け、やっと作った暦に間違いがあれば、その責任は自
 分の命で償えとは。暦作りも命がけだったということを教えてくれる義和の
 日食予報の話でした。

 これじゃ、大酒を飲みたくもなるだろうな・・・と、ちょっと同情してしま
 すかわうそです。
 ああ、今の時代に生まれてよかった!


  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
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オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2016/09/18 号

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