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■沖天の月の見える時
 本日の話は、有り難い読者の方からの質問ネタです。
 まずは、いただいた御質問の紹介から。

 -------------- いただいた質問メール(抜粋) --------------
  (前略)
 つまらない質問ですが、昨夜明け方前に空を見たところ、月が南中に近く、
 頭上、真上に近く月が見えたので、疑問を持ちました。

 月が高く見えるのは真冬の満月の南中時頃ではないかと思うのですが、何
 か間違っているでしょうか?
 --------------- 2016/11/22 にいただいたメール ------------

 さて、何処か間違っているのでしょうか、それとも間違っていないのでしょ
 うか。皆さんも考えてみて下さい。

◇冬の満月と夏の満月の地平高度角(仰角)
 月の見える高さ(地平高度角、仰角)は、一日の内で南中する時が一番高く
 なるのは、月に限らず太陽や他の星々も同じなので、これからの議論は南中
 している時の高さだとして話を進めます。

 さてさて、満月に限って考えてみると、冬の満月は沖天高くに見えるのに対
 して夏の満月はそんなに高くない(というより、「低い」と言うべきか)と
 いうのは、皆さんもよくご存じでは無いでしょうか。これは事実で、この点
 では、御質問のメールにある

  「月が高く見えるのは真冬の満月の南中時頃」

 という一文は正しい。
 どれくらい違うか試しに今年(2016年)について東京における地平高度角を計
 算してみると、

  (夏) 6/20の満月の南中高度 35°(南中は 23時50分)
  (冬) 12/14の満月の南中高度 73°(南中は 12/15 0時14分)

 となります。
 「あれ? 冬の満月も真上には来ていない??」なんていわないで下さい。
 73°でも十分首が痛くなる角度です。ただし、年によっては冬の満月がもっ
 と高くなることがあり、東京では82°に達することがあります。この角度な
 ら「真上」といっても十分に許される角度でしょう。
 ちなみに、「本当に真上」にある月を見るためには、北緯28°くらいまで南
 下する必要があります。日本でいえば奄美大島くらいですね。

◇月の南中高度が変わる理由
 月の南中高度が変わる理由を考える前に、南中高度が変わらない星について
 まず考えてみましょう。
 南中高度が変わらない星とは・・・恒星です。あの星座を形作る星です。

 これに対して、南中高度を変える星はというと、月の他に太陽や惑星などが
 この仲間となります。思い出してみて下さい。多分一番よくわかるのは太陽
 の南中高度の変化です。
 真夏の太陽は頭上から焼け付くような陽差しを送って来るのに、冬になると
 低い位置に留まって、陽差しも弱々しくなりますよね。

 このように南中高度を変える星と変えない星の違いは何かというと、それは
 それぞれの星が天の赤道からの角度を変えるか否かということです。
 天の赤道とは、地球の自転軸に直行する赤道面と天球が交わる大円のことで
 す。もう少し解りやすくいえば、地球の中心から見た地球の「赤道」を天球
 に投影したものともいえます。

 この天の赤道を 0°とし、天の北極を90°として測った緯度を赤緯といいま
 すが、恒星の赤緯は変化しない(何百年〜という単位で考えるとわずかに変
 化しますが)のに対して、月や太陽、惑星はある範囲の中で赤緯が変化しま
 す。これは、太陽の周りを巡る太陽系天体の公転面が赤道面に対して傾斜し
 ているためです。

 ちなみに太陽自体の見かけの角度が変化するのは、太陽が動いているという
 よりそれを見ている我々の住む地球が動いている事による見かけの動きとい
 うことが出来ます。
 この太陽の見かけの動きを結んで出来る一本の大円を、黄道といいます。
 ついでに、月のそれは白道です。赤道に黄道、白道と、なかなかカラフルな
 「道」ですね。

 太陽の黄道と赤道との傾斜角度は、およそ23.4°。このため、太陽の地平高
 度は、この傾斜角の 2倍だけ変化します。つまり一番高く太陽が見える時期
 (夏至)と低く見える時期(冬至)の太陽の高度角の差は、

  23.4°× 2 = 46.8°(およそ)

 となります。実際に東京の夏至の日と冬至の日の太陽の南中高度を計算して
 みると

  (夏至) 6/21の太陽の南中高度 77.8°
  (冬至) 12/21の太陽の南中高度 30.9°

 となります(0.1°の差は四捨五入の関係・・・)。
 さてさて、太陽のことは解りましたが、月(や他の惑星)はというと、多少
 の差はあれ、ほぼこの太陽の通り道である黄道に沿った動きをしますので、
 黄道の上を動いていると考えても、それ程大きな違いはありません。
 月の通り道である白道も、黄道に対しておよそ 5.1°の傾斜があるだけです
 から、この 5.1°に目をつむっていただければ、黄道上を動くと考えること
 ができます。

◇月が高く見える時期?
 さて、黄道と白道の傾斜角 5.1°には目をつむったとして考えると、冬の満
 月は高くて夏の満月は低い理由は簡単に解ると思います。
 満月とは、地球を挟んで月と太陽が正反対の位置(黄道上で 180°離れた位
 置)にある状態ですから、

  冬の満月は、夏の太陽の位置
  夏の満月は、冬の太陽の位置

 にあることになります。つまり冬(冬至に近い頃)の満月は、夏至の頃の太
 陽の位置に近い場所に見えるので、夏の太陽同様、空の高い位置に見え、夏
 の満月は冬至の頃の太陽の位置にあるので、あまり高くまで昇ってくること
 は無いのです。

◇月が高い位置に見えるのは冬だけ?
 さて、やっとこさ御質問いただいた話に戻ることが出来ます。
 今までは、「満月」の話ばかりしてきましたが、御質問のメールを読むと、

 > 昨夜明け方前に空を見たところ、
 > 月が南中に近く、頭上、真上に近く月が見えた (11/22 のメール)

 とあります。この内容からするとご覧になった月は11/20〜21の間の夜に見
 えた月でしょうか。だとすると満月ではありませんね(満月は11/14)。

  「冬の満月は高い位置に見える」

 のは本当ですが、では月が高い位置に見えるのは満月の時に限っているのか
 といえば、そんなことはありません。冬の満月が高い位置に見えるのは、黄
 道上で「夏至の頃の太陽のある位置近くに月が見えるから」であったことを
 考えれば、満月でなくとも、月が夏至の頃の太陽の位置近くに有りさえすれ
 ばよいことになります。

 太陽は黄道を一周するのには1年かかりますけれど、月が白道(黄道と近い)
 を一周するのにかかるのは1月弱、およそ27.3日です。
 つまり、およそ27.3日毎に月は太陽が夏至の頃にある位置付近を通過すると
 いうことです。そして、こんな時は月は空の高い位置まで昇ります。

 夏至の頃の太陽の位置を月が通過するころの月の朔望と季節の関係を考えて
 みると次のようになります。

  春分の頃 ・・・ 上弦の半月
  夏至の頃 ・・・ 新月
  秋分の頃 ・・・ 下弦の半月
  冬至の頃 ・・・ 満月

 となります。
 現在は秋分と冬至の間の時期ですから、月が最も高く見える時期は満月と下
 弦の半月の間、月齢でいえば18前後くらいの日で、今回でいえば 11/18がそ
 んな日で、月の南中高度は東京で73°と冬至の頃の満月の高度と同じになり
 ます。

 というわけで、月が高く見える「冬の満月」と同じくらい高い位置の月は、
 ほぼ毎月1〜2度は巡ってきます。季節によって、その時の月の形は違います
 けれど。

 御質問のお便りからすると、質問者のご覧になった月は下弦の半月に近い月
 (月齢でいえば21程)だったと思われますので、本当はあと3日ほど早い日
 の方がより高い月を眺めることが出来たはずです。とはいえ、ご覧になった
 日の月でも南中高度は東京では66°( 5時19分に南中)ですから、まあ高い位
 置に見えたと言ってもよいのでは?

 本日はちょっと長い、そして多分少々解りにくい暦のこぼれ話でした。
 (黄道、白道等々の説明には、やっぱり図が必要だな・・・)

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2016/11/28 号

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