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■京都の道路の向きは? 真北のはかり方
 本日の話題は、よくあるパターンで、読者の方からいただいたメールからス
 タートします。

 ------ おっさん○♪ さんからのメール (2016/11/24) ----------
 Subject: 京都の碁盤の目は北極星で決めた?

 カワウソさんへ

 <暦のこぼれ話>の話題提供
 京都天文こよみを見ていましたら、京都の道路割りは磁北で決めてない模
 様です。どうやって真北とわかったのでしゃうか?
 風水で決めたとは考えられない。
 ------ おっさん○♪ さんからのメール   ここまで   ----------

 有り難い、話題提供有り難うございます。
 11/24 のメールを今頃採り上げたのは・・・私がナマケモノだったから。
 ごめんなさい。

 さてさて、暦の話かなとも思いましたが、よく考えてみると暦と深く結びつ
 いた話だと気がつきましたので、とりあげてみます。

◇磁北てなに? 真北てなに?
 「京都の道路割りは磁北で決めてない模様です。
  どうやって真北とわかったのでしゃうか?」

 さて、ここで登場する言葉「磁北」とは、方位磁石が指す北のことと考える
 ことが出来ます。方位磁石は簡単な仕組み(単純そうですが、きちんと作ろ
 うとすると結構工夫が必要ですけど)で方位がわかる道具だとよく知られて
 いますが、方位磁石が指す北(あるいは南)が地球の磁場の極の方角です。
 これに対して、私達が「北」という場合に問題とする北は、地球の自転軸の
 向いている北で、これを真北といいます。

  太陽は東から昇って西に沈む

 ということはごく当たり前のことですが、こうした日常目にする天体の動き
 は地球の自転により生み出される見かけの動きですから、こうした天体の動
 き、あるいはある瞬間の天体の位置を示す方位は、地球の自転軸の向きであ
 る真北を基準とした方位です。

 この磁北と真北が一致していれば何の問題も無いのですが、実はこれは結構
 ずれています。どれくらいかというと、現在の日本では 6〜10°程のずれが
 あります(この磁北の真北に対するずれを「偏角」といいます)。
 このくらい、「どうってこと無いよ」と、おおらかに捉えることが出来れば
 いいのでしょうが、ちょっと大きすぎますよね。

 ちなみに、腕を伸ばした状態で親指を除いた小指から人差し指の4本をそろ
 えたとき、その幅が大体5°程といわれますから、日本付近の磁北と真北の
 ずれはそれより大きいことになります。案外大きいでしょう?

 また、この偏角は一定というわけでもありません。説明の中でわざわざ「現
 在の日本では 6〜10°程」と書いていることでピンと来ている方も多いと思
 いますが、偏角は

  1.場所によって異なる
  2.時代によって異なる

 のでした。これは、磁極が自転軸の極(普通に、北極、南極というもの)と
 一致していないことと、少しずつ移動しているためです。
 「京都の碁盤の目」から始まった話なので、場所として京都を考えると、現
 在の偏角は約 7.6°(西偏=真北より西側を指すの意味)です。

 もし、磁北にしたがって京都の大路を作ったとすると、 7.6°も違えば、太
 陽が南中する頃の自分の影と道路の向きを見比べたら気がついてしまいます
 ね。しかし、実際の京都の大路の向きと太陽が南中する時の自分の影を見比
 べると、狂いは無いはず。こんなことでも十分に、

  「京都の道路割りは磁北で決めてない模様です。
   どうやって真北とわかったのでしゃうか?」

 には答えられるのでは無いでしょうか?
 なお、偏角は時代によっても異なるということで、京都の町並みの原型が作
 られた平安時代の偏角はどうだったかというと今よりもずれがおおきくて、
 日本では10〜15°ほど西偏していたと考えられています。

◇どうやって「真北」を知ったのか?
 この辺りから、「暦」と結びついた真北の話となります。
 どうやって、真北を知ったのかというとそれはおそらく、

  「南の反対」

 ということからです。「?」と思われたかもしれませんが、既に説明のあち
 こちにヒントがまかれていたことにお気づきの方もいらっしゃったことでし
 ょう。そう、「太陽の南中」です。

 間もなく、暦を作る上では重要な一年の長さを測る一つの起点となる冬至の
 日がやって来ます。冬至の日を求めるため、古くから行われていたことと云
 えば、太陽が南中する瞬間に地面に垂直に立てた棒の影の長さを測ることで
 す。冬至の日はこの影の長さが一年で一番長くなる日として知ることが出来
 るのです(実際にやるのは、言うほど簡単じゃ無いですけど)。

 この観測をする為に必要なことは何かと言えば、太陽が南中する時に晴れて
 いること・・・はもちろんですが、まず「南中」の瞬間を知ることです。
 南中する瞬間の棒の影の長さは、その日の内で最短となるので影の長さをプ
 ロットしてゆけば、求めることも出来るのですが、これは、一時も目を離せ
 ない。大変です。もっと楽にする手は無いか? 怠け者の私なら絶対にそう
 考える。そして、怠け者じゃ無かったかもしれないけれど、私以外にもそう
 思った人が、古代にもいたみたいです。いい手があります。それも簡単な手
 が。用意するものは、

  1.平らな場所
  2.棒1本 (2本あった方がいいかな?)
  3.紐(ひも)1本

 以上です。
 まず、影を作るための棒を立てる場所を決め、その場所を中心として、紐で
 円を描きます。全周を描く必要はありません、北の方の半円でOK。注意点と
 しては、その日の太陽の南中時の棒の影の長さより円の半径を大きくしてお
 くことです。

 さて、ここまで準備が出来たら後は気長に棒の影の動きを眺め、棒の影が描
 いた円周の上に落ちる瞬間にその位置に印をつけます。すると、この印は、
 午前に1つ、そして午後に1つ出来るはずです。
 この2点を結んだ線の 1/2の場所に更に印をつけ、この印と円の中心の棒の
 位置を結ぶ直線を引くと・・・この線は真の南北を示す線となります。
 ほら簡単。ちなみに、最初に印をつけた二つの印を結んだ線は真の東西を示
 す線となります。

 「平らな場所なんて近くにあるかな?」なんてことを心配した方は、大丈夫
 です。そこまで大がかりで無くても、自宅の床に置いた平らな板(床そのも
 のでもかまいませんけど)に、コンパスで円を描いて、中心に棒を立てれば
 ミニチュア版の観測装置ができあがりです。

 こんな単純な家庭用ミニチュア版装置でも、きちんと作れば誤差1度以下で
 簡単に真の東西南北を求めることが出来ます。
 この方法は、簡便でかつ精度もそこそこ高いもの(冬至の頃に測ると更に精
 度が高まりますので、おすすめ)です。この真北の求め方は、古代中国では
 周王朝の時代(紀元前11〜3世紀)には知られていましたから、中国の技術
 を学んで作られた平安京(やその前の平城京、藤原京など)の建設の際には
 確実に使われていたことでしょうね。

 暦を作る上でも、太陽の南中高度を測るというのは、非常に大切な観測です
 から、この真北を知るという技術は絶対に必要なものです。
 ということで、暦にも関係ある話でした。

◇おまけの「風水」
 いただいたメールの最後に、

  「風水で決めたとは考えられない」

 とありました。メールのこの一文は、「真北を風水で求めたとは考えられな
 い」という意味でしょうから、それはそれで正しいのですが、風水そのもの
 は方位を求める方法じゃ無くて、その方位をどのように使う(?)かという
 ものですので、そうした意味で考えると、京都の町を作る上では、風水は重
 要視されています。

 古くから中国(&中華文化圏の国々)には「四神相応(しじんそうおう)」
 という言葉があります。これは五行説という考えに基づくもので、大地の四
 方にはそれぞれ特性をもった方位を司る神がいて、その神の特性に合致した
 場所は、神々に守られて、安定し栄える場所であるという考えです。
 (北は「玄武」、東は「青龍」、南は「朱雀」、西は「白虎」+中央には、
 帝王を意味する黄龍を加えると五行が完成)
 四神相応の地の条件と考えられるのは、

  北に山、南に海または湖沼、東西には北の山より低い丘陵地帯

 といった地勢の場所と考えられました。こうした地勢の土地は、

  「風を蓄え水を集める場所」

 という風水的に最適な土地なのです。平安京は北に丹波山地を背負い、南に
 巨椋池を見、東に大文字山、西に嵐山を供えた四神相応の地として日本の都
 を建設する場所として選ばれたのでした。

◇おまけのおまけ「指南魚」
 最後におまけのおまけです。
 方位磁石を利用した羅針盤は世界三大発明の一つとされる、中国発の大発明
 ですが、そのルーツともいえる装置は、「指南魚」というものでした。

 「指南魚」というくらいで、魚の形をした木片に磁石を埋め込んだもので、
 これを静かに水を入れた器に浮かべると、その頭は南を指す(尻尾は北)と
 いうもの。太陽の位置を気長に観測しなくても、曇っていても大体の南北を
 知ることが出来るものとして考案されたもので、11世紀頃には存在していた
 といわれます。
 うーむ、指南魚発明は平安京建設には、間に合わなかったみたいですね。

 さてさて、いただいたメールに答えるための本日の暦のこぼれ話でしたが、
 大分遅くなって、メールを下さったおっさん○♪さんも忘れてしまったかも
 しれませんね。遅くなって済みませんでした。
 その他の方々には、「長くなって済みませんでした」でした。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2016/12/19 号

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