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■年内立春の歌の詠われた日付について
 ただ今寒の内。厳しい寒さがつらい日々ですが、ここを抜ければ立春。
 暦の上とはいえ、春の兆しが見てて来るようでうれしいですね。
 さて、もういくつ寝ると「立春」という時期に、立春にまつわるご質問メー
 ルを頂きましたので、万年種切れで困っている暦のこぼれ話に、早速取り上
 げてしまうことにしました。

 −−−−−−−−−− 長井様からのメール(抜粋) −−−−−−−−−−
 古今集のはじめを飾る歌です。

 としのうちに はるはきにけり ひととせを
 こそとはいはむ ことしとやいはむ
  在原元方

 年内立春を詠った歌ですが、古注に、仁和三年(887年)十二月立春の仙洞歌
 合、昌泰二年(899年)十二月十九日の仙洞歌合とあるというのですが、貴サ
 イトで、それらの年が、年内立春であったのかどうかを検索したのですが、

  1.仁和三年は、ユリウス暦で、1/28〜翌年2/15、
  2.昌泰二年は、2/14〜翌年2/3が、各々の一年になり、

 立春を2/4か2/5とすると、1は、新年・年内立春、2は、ないことになり
 ます。この平安期、立春をこの月日にして、判断したのですがいいもので
 しょうか。
 古注は、定家(1162〜1241)の校訂した伊達本にあるものです。
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 さて、いただいたメールに記された仁和三年と昌泰二年は年内立春となった
 か否か?
 答えを先に書いてしまいますと、どちらも年内立春となる年です。ですので
 どちらの年にこの歌が詠われても問題ありません。

◇立春の日付
 では長井様がお悩みになった原因はなんでしょうか?
 日付の間違いでしょうか?
 それとも、平安の時代と現代とでは、立春の時期が大きく違っていたとか?

 といろいろ、話を大きくしてみましたが、実はそんな難しい話ではなくて立
 春の日付けをユリウス暦の日付けで考えてしまったことでした。

 >  立春を2/4か2/5とすると

 という仮定は、間違いではありません。ただし、この日付けはグレゴリオ暦
 での日付け。
 平安時代に使われていた暦(問題の時期ですと宣命暦)と現代の二十四節気
 の節入りの瞬間の計算方法には違いがありますが、その違いといっても、何
 日も結果が異なるわけではないので、よほど厳密に比較する必要がある場合
 を除けば、「だいたい同じ」と考えることが出来ます。

 現実に宣命暦で求めた887年と899年立春の日付けはそれぞれ

  十二月 十六日 (グレゴリオ暦 888/2/5 , ユリウス暦 888/2/1)
  十二月二十八日 (グレゴリオ暦 900/2/5 , ユリウス暦 900/2/1)

 どちらも、グレゴリオ暦の日付けに直すと 2/5となりますので、長井様が立
 春の日付けを「2/4か2/5」という仮定は正しかったことになります。惜しか
 ったのは、この過程をユリウス暦の日付けに当てはめて考えてしまったとい
 う1点です。

 確かに問題となっている時代には、グレゴリオ暦という暦は影も形もなかっ
 たものですので、その当時、ヨーロッパ(ローマ帝国の版図)で現に使われ
 ていたユリウス暦で考えたいという気持ちはわかりますが、このように

  季節と暦日

 を比較するということであれば、グレゴリオ暦の方が適します。ユリウス暦
 の暦日は季節(正確には太陽と地球の自転軸の向きの関係)に対して 400年
 におよそ 3日前進してゆくように見えます。この季節に対する暦日の前進が
 ユリウス暦の大きな問題で、差が小さいうちはよかったですが、積もり積も
 って10日にもなった1500年台には、無視できない状態となったのがグレゴリ
 オ暦への改暦の原因となったのです。

 このため、今回の問題のような古い時代の「立春の日」などの検討には、ユ
 リウス暦の日付けはあまり向きません。グレゴリオ暦の日付けを、グレゴリ
 オ暦の改暦前まで敷衍したものと比較する方が、確実です。

 こうしたわけで、こよみのページ(web) の新暦と旧暦にある「和暦年別表」
 等には旧暦の日付けとそれに対応する、グレゴリオ暦とユリウス暦の両方を
 記載しています。用途に応じて使い分けられるように。

◇ユリウス暦の用途は?
 ユリウス暦からグレゴリオ暦への改暦は1582年ですから、それ以前にはグレ
 ゴリオは、この世には存在しておりませんでした。
 ですから、今回の問題が立春といった季節との関連を問うものではなくて、

 「日本でこの歌が詠われていた日に、ヨーロッパでは何が起こっていたか」

 といった、歴史上の日付けを比較する必要がある場合には、ユリウス暦の日
 付けでなければ意味がありません。
 古い時代の日付けを別の暦の日付けに直す場合には、その目的用途を考えて
 適する使い方が必要です。

 今回は、立春の日付けについてのご質問に答えるはずが、いつの間にかユリ
 ウス暦とグレゴリオ暦の日付けの差についての話になってしまいました。
 まあ、回答にはなっているので、あとは長い「余談」だとして、お許しくだ
 さい。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2017/01/30 号

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