こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■将来の二十四節気の予測は難しい?
 今回のこぼれ話の種は、暦についての、よくある質問から拾ってきました。
 どんな質問かというと、ざっとこんな感じ。

 > 将来の二十四節気の計算というのは難しいのでしょうか?
 > 例えば、現在の「夏至」の定義は、太陽の黄経が90°になる瞬間というこ
 > となので、太陽の位置が求められればわかるはず。
 > 日食の予報などはずっと先まで計算できるようなので、太陽の位置は計算
 > 出来ると思うのですが。国立天文台の暦計算室を見ても、2020年までしか
 > 二十四節気の日時がありません(今年は2019年)。
 > 不思議です。

 ざっと、こんな感じです。
 不思議に思われるお気持ち、よくわかります。
 おっしゃる通りで、太陽や月の位置を求めるということでいうと、100年、
 1000年レベルでも、現在ならかなり正確に計算できます。
 そういう意味では、二十四節気だって・・・。

 実は、この問題は太陽や月の位置の計算の難しさというよりは、それを表す
 時刻を予測することの難しさが原因なのです。

 「時刻の予測」なんていうと不思議に聞こえると思うので、天文計算などで
 使われる時刻と日常に用いる時刻との差の予測の難しさとでも言い換えまし
 ょうか。
 天文計算で用いられる時刻系は、力学時と呼ばれるものです。

 アインシュタイン先生のおかげで、時間の流れも、重力や運動速度の影響を
 受けて、場所ごとに異なるなんてことがわかってしまったため、この力学時
 は、その観測基準を地球中心にするのか、地球表面にするのか、はたまた太
 陽系の重心位置なのか、太陽の中心なのか・・・でも変わってしまうのです
 が、こうした違いは相互に変換可能ですし、そんなに極端に違うこともない
 ので(ブラックホールの周辺とは別ですけど)、今回の説明では特に区別し
 ないことにします。

 この力学時は、力学計算においては1秒の長さが一定不変の時刻系であると
 いえます。

 この時刻系で計算している限りは、二十四節気の時刻をずっと先まで計算す
 ることは容易なことです(日食の予報なども)。
 問題は、日常に使われる時刻の方。

 高精度の原子時計などがあって、現在は一定不変の1秒を得ることは容易に
 なってきていますが、どれほどその精度が上がったところで、人間の生活は
 相変わらず地球の自転と連動した時刻で動いています(今のところは)。

 いくら10憶年で1秒しか狂わない時計を使っていても、真夜中なのにその時
 計が「正午」を示していたら、この時計は日常生活には使えません。
 どうするかといえば、時計を合わせる(ずらすというべきか?)わけです。
 時計を合わせる基準は、説明で「真夜中なのに」と書いた通り、その基準と
 なるのは地球の自転ですね。

 そのため、地球の自転の進み遅れが、一定不変の時刻系と比較して一定以上
 ずれてしまった場合は、地球の自転は修正出来ないので、時計の示す時刻の
 方を修正します。たまにニュースになる「うるう秒」を思い出していただけ
 れば判ると思います。

 残念ながら、この地球自転の変化を数年レベルで正確に予測する理論はまだ
 出来ていません。一定のように見える自転周期は、厳密に測ってみるとかな
 り不規則な変化をしています。また季節変化もかなりあります。

 現在はVLBIという観測手法を用いることで、非常に正確な自転周期を知るこ
 とが出来るので、この観測結果を用いて自転速度の変化を求め、その観測結
 果を基に、将来の変化を計算で外挿し、予測して国民の生活に関連するよう
 な予報にはその予測値を加味して公表しています。

 現在、UTC(協定世界時)へのうるう秒の挿入は、大体半年くらい前にIERS
 という国際機関からアナウンスされるのですが、来年や再来年の暦はそれ以
 前に作りますから、ここではどうしても「独自の予測値」を使わざるを得ま
 せん。

 しかし、いくら独自といっても、その暦の使用時(暦を作っている時から考
 えれば未来の出来事)に値が大きく違っていては困るので、あまり先までの
 予測はしないのです。
 ちなみに力学時と世界時との差をΔTといいます。2019年のΔTは70秒です。

 実際に10年くらい先まで予測すると、ΔT の予測値は1〜2秒、場合によって
 はもう少しずれてしまうこともあります。
 たかが、1〜2秒ですが、「まあいいや」とは、責任ある公的機関が言うわけ
 にはいきませんから、実生活では2年くらい前の暦があればよい(法律的に
 は、前年の2月の官報に掲載されたものが使われる)のですから、国立天文
 台も公的に発表するのは、2年先まででよいわけです。

 もちろん計算だけならいくらでもできますから、100年後のΔTを100秒と予
 測して、これを明示し「予報時刻を使用する場合は、これを考慮して各自の
 責任でお使い下さい」と言えるのであれば、公表は可能ですが、社会の基盤
 情報である暦を作る公的機関は、そんないい加減なことはできませんから大
 変です。

 その点、「こよみのページ」などは個人が勝手に予測している計算ですから
 「使う人は自己責任で!」と書けますから・・・。
 よかった、責任がなくて。

 今回は二十四節気の話からスタートしましたが、問題は時刻の方ですので、
 この問題は、朔の瞬間や、日食の起こる場所、時刻などなど、あらゆる暦計
 算に影響します。

 難しいのは遠い星の位置予測ではなくて、足元の地球の自転の予測だったん
 ですね。皆さん、本日は外を歩くときに、じっくりと足元の地球を見てやっ
 てくださいね。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2019/02/08 号

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