こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■いわゆる「新暦」と言わない理由
 お早うございます。
 日刊☆こよみのページで、私はよく「いわゆる旧暦」という使い方をしてい
 ます。しかし、新暦については「いわゆる新暦」とことわって書くことはな
 いことを疑問に思う方もいらっしゃると思います。

  質問
  1.いわゆる旧暦なら、グレゴリオ暦を新暦と言わない理由はなにか?

 これは以前、読者の方からいただいたメールです(おっさん○さん、ありが
 とうございました)。今回のタイトルとは微妙に異なるものですが、このメ
 ールをいただいたときに、本日の話を書いておこうと思った、きっかけのメ
 ールです。

 このメールをいただいてまず思ったことは、私は結構グレゴリオ暦を新暦と
 読んでいるんだけどな〜。ただその場合、「いわゆる新暦」という使い方は
 特別な場合以外しません。普通は単に「新暦」と言います。

 改暦が行われた際に改暦前に使われていた古い暦法の暦を旧暦とよび、新し
 く使われるようになった暦法の暦を新暦というのが暦法における旧暦と新暦
 です(狭義の旧暦と新暦)。

 日本における直近の改暦と言えば明治6年の改暦で、この改暦の直前まで使
 われていた暦は天保暦ですから、この天保暦を旧暦と言うことに何の問題も
 感じません。同様にこの改暦の後に新たに採用された暦を新暦と呼ぶことに
 も問題を感じません(本当は若干の抵抗感はありますが、その件は後述しま
 す)。

 ただし、一般的に「旧暦」という言葉を使う場合は天保暦だけを指すのでは
 なくて寛政暦も宝暦暦も貞享暦も宣明暦もみんなまとめて「旧暦」と括って
 使っているようなので、天保暦だけを指して使う場合の狭義の旧暦という言
 葉と区別するために、わたしは一般的な使い方の旧暦を「いわゆる旧暦」と
 呼んでいます。ちょっとした拘りです。

 寛政暦から天保暦への変更も立派な改暦なので、この場合であれば寛政暦は
 旧暦、天保暦は新暦となるはず・・・という、暦屋としての拘りです。

 明治改暦以前の暦はみな、太陰太陽暦と呼ばれる暦の一種であったことを考
 えれば、太陰太陽暦の暦全てを「旧暦」として括って扱う一般的な用法とし
 ては認めてもよいと考えています。

◇グレゴリオ暦を「いわゆる新暦」と呼ばない理由
 さてさて、ようやくですがグレゴリオ暦を「いわゆる新暦」と私が使わない
 理由は、日本で行われた最後の改暦である明治改暦(明治6年の改暦)以後
 ずっと一つの暦・・・おそらくはグレゴリオ暦・・・が使われ続けているの
 で、「改暦後の暦を新暦という」という狭義の意味でも「新暦」で間違いな
 いので、わざわざ「いわゆる」といった言葉をつけることはしていません。

 もし今後、改暦があって、改暦後の暦がグレゴリオ暦と大差ないものである
 なら、そのときには「いわゆる新暦」という方をするようになるかもしれま
 せんが、改暦の可能性は限りなくゼロに近いでしょうから、そんな使い方を
 することもなさそうです。

◇日本の新暦ってグレゴリオ暦? ちょっと拘り
 ここからはちょっと、明治改暦後の暦に関する拘りについてのおまけです。
 まず、明治改暦後の暦が本当にグレゴリオ暦かというと、次の2点疑問があ
 ります。

 1.法律にはどこにも「グレゴリオ暦」という言葉は出てこない。
 2.置閏法の問題

 1については、形式的な話ですので、あまり責めないことにしましょう。
 では2についてはどうかというと、更に次の2つの問題があります。

 2.1 閏年が4年毎にやってきてしまう
 2.2 閏年の計算に用いる年が西暦年とは異なる

 明治6年の改暦詔書(太政官布告 第三百三十七号)の閏年についての記述
 部分を抜き出すと

  1ケ年三百六十五日十ニケ月に分ち四年毎に一日の閏を置候事

 となっています。ううむ、これだとグレゴリオ暦じゃなくてユリウス暦じゃ
 やないか! これについては明治改暦の詔書が作られた段階でこの詔書の案
 を書いた方がグレゴリオ暦を正しく理解していなかったと言うことだと思い
 ます。責めるのは酷かな?

 とはいえ、このままではまずいことがわかって明治31年に閏年の定義を勅令
 (勅令 第九十号)で改めます。

  朕閏年に関する件を裁可し茲に之を公布せしむ
  神武天皇即位紀元年数の四を以て整除し得べき年を閏年とす
  但し紀元年数より六百六十を滅じて百を以て整除し得べきものの中
  更に四を以て商を整除し得さる年は平年とす

 となっています。計算結果はグレゴリオ暦のものと同じになるように定めら
 れています。ただ、そうは言っても計算に使う年数は西暦ではなくて「神武
 天皇即位紀元年数」を使っているところが泣かせます。あくまでもグレゴリ
 オ暦の物まねじゃないとしたかったのか?

 この日本の法律からすると現在の日本の暦は「グレゴリオ暦」とは違うので
 グレゴリオ暦は「いわゆる新暦」とでも呼ぶ方がいいのかな・・・でも面倒
 なので、新暦と呼んじゃっています。

 拘りついでに言えば、置閏法を明治31年の勅令で変更しているので、細かな
 ことを言えば、ここで改暦が為されたことになるのですが、本当は明治6年
 の改暦の際に、グレゴリオ暦に準ずる暦の定義をしたつもりが理解不足で正
 しく書けなかったというのが真相だと思うので、目を瞑ってあげることにし
 ています。現実の問題が発生する前に修正してますからね。

 以上、またしても取り留めの無い暦のこぼれ話でした。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2020/07/05 号

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