こよみのぺーじ 日刊☆こよみのページ スクラップブック  (PV , since 2008/7/8)
■ブルー・ムーンの話
 一昨日は中秋の名月、昨日は満月。東京ではどちらの夜もよく晴れて、丸い
 綺麗なお月様が見えました。ただ、どちらも深夜の帰宅時にとぼとぼと歩き
 ながら見上げざるを得なかったのは残念でしたけど。

 さてさて、中秋の名月と満月が終わったばかりですが、今月は嬉しいことに
 もう一つの名月と、もう一度の満月が巡ってきます。

  よし! 次のチャンスこそは「ノンビリとお月見」するぞ!!

 一昨日、昨日の悔しさをぬぐい去るチャンスがあるんです。
 と個人的な思いをぶちまけたところで本題に入りましょう。

 ----------------- 鈴木さんからのメール(抜粋)----------------------
> さて、質問なのですが
> 来月10月は、満月が2回あります。
> 最近では、ひと月に満月が2回あることを「ブルームーン」というようです
> が、この意味は「めったにない」というらしいです。
 --------------------------------------------------------------------
 2020/9/20に「1月に2度の満月」という話題をこのコーナーで採り上げまし
 たが、そのきっかけになった鈴木さんからのメールの一部に再度登場してい
 ただきました。

 前回は、「ブルームーン」まで書くと長くなってしまうと言うことで、一部
 話を持ち越して下りましたので、本日は持ち越していた「ブルームーン」の
 話を採り上げることにしました(と言うことで、鈴木さんのメールには再登
 場していただきました)。

◇「ブルームーン」とは
 ご質問の中に「ブルームーン」(Blue Moon)ですが、辞書でMoonを引くと

  once in a blue moon ・・・ めったにない、極まれに

 という熟語の解説が見つかります。
 辞書の説明によると「大気中の塵などの影響でまれに月が青く見えることか
 ら生れた言葉」とあります。

 最近作られた辞書ではどうなのか、調べていないのですが、私の持っている
 英語の辞書にはBlue Moon に関して「ひと月の間に見える二度目の満月」と
 いう解説はありませんでした。

 鈴木さんのメールにも触れられていますが、現在では

  「ひと月に満月が2回ある時、2回目の満月をブルームーンという」

 ことが多いようなのですが、そうした説明はありませんでした。その理由と
 して考えられるのは、この

  Blue Moon ・・・ ひと月の間に見える二度目の満月

 という意味が比較的最近使われるようになった言葉であると云うことです。
 実は、「ひと月の間に見える二度目の満月」をブルームーンと呼ぶと云うこ
 とは、ある雑誌が間違えて説明した記事が元になっているようなのです。

 その間違った記事を掲載したという雑誌はアメリカの有名な天文雑誌

  Sky & Telescope(スカイ・アンド・テレスコープ)

 です。
 日本にも多くの天文雑誌がありますが、Sky & Telescope 誌はそうした天文
 雑誌の草分け的な存在で、非常に有名な雑誌です。

 このすごく有名な天文雑誌の1943/7号及び1946/3号でBlue Moon という言葉
 について取り上げられました。
 現代のブルー・ムーンという解釈はどうやら後者の 1946/03号で、「その月
  2回目の満月」という意味を付け加えてしまったことが元となって拡がった
 もののようです。

 このブルー・ムーン拡散の元となった1946/03号の記事の説明は間違いだっ
 たのです。とはいえ、その記事だけの問題であればその雑誌を読んでいる天
 文愛好者の間だけの問題だったのでしょうが、1980/1にアメリカのラジオ局
 がこの話を紹介することがあってから、どうやら急速にこの誤ったブルーム
 ーンの説明が拡がってしまったようなのです。

 この誤りの件に関しては、Sky & Telescope 誌自身が調査し、元の記事に誤
 りがあったことを認めた記事を1999/3号に掲載しています。私はさすがに元
 の記事は読んだことがありませんでしたが、この1999/3号の記事の方は見た
 (私の英語力ではとても「読んだ」とはいえない・・・)記憶があります。
 おもしろそうな記事だったので覚えています。
 
 ちなみに、この1999/3号の記事は雑誌社のWeb サイトで比較的最近まで読む
 ことが出来ました。

 What's a Blue Moon?
  http://www.skyandtelescope.com/observing/objects/moon/3304131.html

 今回の記事を書くにあたって、もういちど確認しようと思ったら、残念なが
 らそのページは削除されてしまっていました。ただ、過去のインターネット
 サイトの記録を保存している Internet Archive の WayBack Machineサイト
 で上記サイトを探すと、記録が残っていますので今でも内容を確かめること
 が出来ました(便利な時代です)。

◇本当は一つの季節に 4度の満月がある時の 3番目の満月だった?
 元々のSky & Telescope 誌の記事は「Blue Moon」 という言葉の語源探しだ
 ったらしく、その語源を探るうち、「メイン州農民年鑑」の中にBlue Moon 
 という記事を見つけ、これを紹介する過程で間違いが生じてしまったようで
 す。

 もし本当に「メイン州農民年鑑」にあったBlue Moon という言葉からこの話
 が始まったのだとしたら、それは明らかに誤りから始まったといえます。

 Sky & Telescope 誌が1999/3,1999/5 にこの誤って広まってしまったBlue M
 oon の意味について検証した際に1819〜1962年の間に発行された「メイン州
 農民年鑑」のうちの40冊を調査し、そこに示されたBlue Moon の日付を調べ
 た結果、そのすべては

  2,5,8,11月の 20〜23日の間の日付であった

 からです。この日付を見れば「メイン州農民年鑑」のBlue Moon が「一月の
 間の二度目の満月」であるはずがないことがわかります。

 2020/9/20の日刊☆こよみのページで一月に二度の満月が見られる条件とし
 て最初の満月が

   2月を除く他の月の 1日か 2日

 にあることが必要でした。そしてこの場合二度目の満月はその月の30日か31
 日のいずれかの日であって、「20〜23日」なんていう日になるはずがないの
 です。
 (9/20号 http://koyomi8.com/cgi/magu/index.php?date=20200920 )

 では何かと考えるとヒントはやはりその日付、2,5,8,11の20〜23日にありま
 す。現在世界で広く使われているグレゴリオ暦で20〜23の日付といわれて浮
 かぶのは二至二分(冬至・夏至・春分・秋分)の日付。
 次に2,5,8,11月の20〜23の満月と考えると、これは

  二至二分の直後の満月から 3番目の満月

 であると考えられます。二至二分で 1年を 4分割したとするとその一つの期
 間の 3番目の満月で、さらにこの日付であると、同じ期間にもう一度満月が
 来る確率が高い。そう考えるとどうやら「メイン州農民年鑑のBlue Moon」
 が、一つの季節に4度の満月がある場合の3番目の月を指していたようです。

 (※西洋では「春分を春の始まり」と考えるので、この考えからすると四季
 の区切りは、二至二分の日となります。日本の場合は立春、立夏、立秋、立
 冬の四立が季節を区切る日と考えられますので、このあたりには考え方の違
 いがあります。)

 四季それぞれには 3度の満月があるのがふつうで、西洋では宗教上の都合や
 農耕の目安としてこの 3つの満月にはそれぞれ固有の名前を付けて呼ぶ習慣
 がありました(昔は)。おもしろいことにこの、 3度の満月は1番目,2番目,
  3番目の月と数えず、1番目,2番目,最後と数えられ、それぞれの月に以下
 のような名前がつけられていました。

   1番目の満月   , 2番目の満月  , 最後の満月
 春:Egg moon        , Milk moon     , Flower moon
 夏:Hay moon        , Grain moon    , Fruit moon
 秋:Harvest moon    , Hunter's moon , Moon Before Yule
 冬:Moon After Yule , Wolf moon     , Lenten Moon

 満月が各季節に 3度ずつと決まっていれば何の問題もないのですが、2〜3年
 に一度は、一つの季節に 4度の満月が見られるときがあり、この 4つの月に
 呼び名を振ると、1番目,2番目,最後の満月には呼び名がありますが、 3番目
 には名前が付かないことになってしまいます。どうやらBlue Moon とは、そ
 うした

  名無しの満月

 に与えられた名前のようです。
 こう考えていけば得心がいくのですが、こうした説明は暦や天文に興味のな
 い人には「面倒くさい話」でしかないですから、それよりは一月の間に見え
 る二度目の満月の方が受け入れやすくて、これが誤った意味のBlue Moon が
 広がった理由かもしれません。

 そしてこの受け入れやすさから、誤ったこのBlue Moon の使い方の方が、定
 着していってしまい、本来の意味は忘れられてしまいそうな気がします。

◇本来のブルームーンの出現頻度
 記事を書くにあたって、1901〜2100年までの200年間の日本時での満月の日
 を計算して、その中から本来の意味のブルームーンを調べてみたところ、こ
 の期間に 73回のブルームーンがありました。

 200年間に73回ですから、平均すると2.7年に1回。およそ33回の満月に1回の
 ブルームーンが出現することになります。

 現代の新暦の1暦月中に2度の満月がある割合は2.4年に1回でしたから、本来
 の意味のブルームーンの方がほんの少しだけ「希な現象」と云うことが出来
 る様です。
 ちなみ、最近の本来の意味のでブルームーンとなりそうな満月の日は

  2016/5/22 , 2019/5/19  , 2021/8/22 , 2024/8/20
  2027/5/20 , 2029/11/21 , 2032/8/21 (計算は日本時による)

 になります。

◇新しいブルームーンじゃだめ?
 説明の中で「本来のブルームーン」とか「誤伝」と云った言葉を使っている
 ので新しい、新暦の1暦月に中の2度目の満月をブルームーンと云うのは間違
 いかと言えば、そうとも言えないと思います。
 言葉は変わって行くものですから。

 元々、天文学的な意味のある言葉といったものと言うわけではなくて、明確
 な定義があるとは言いがたい言葉でもありますし。
 いい加減なかわうそは、両方「ブルームーン」と呼んでもいいんじゃないか
 なと思っています。

 そんなことに目くじらを立てるより、こうしたことから興味を持って、月を
 見上げてくれる人が増えることの方が、お月様も喜んでくれるのではないか
 と。

 ということで、今月は新しい意味でのブルームーンが巡ってきますので、こ
 の記事を思い出しながら、次の満月を見上げてくれたらいいなと思うかわう
 そでした。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2020/10/03 号

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